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2.絶滅危惧種が保護できない森林伐採に違法判決! ~オーストラリア・タスマニア

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表部 川上 豊幸 氏

裁判の経緯
 2006年末、12月19日、タスマニアの州都ホバートにあるオーストラリア連邦裁判所で、絶滅危惧種が保護されていないとして、ウィーランタ(Wielangta)地域での州有林伐採事業の差し止め判決が行われました。

 裁判の被告は、タスマニアの州有林を管理する政府機関、タスマニア林業公社(Forestry Tasmania)で、同公社による林業業務が絶滅危惧種に対して重大な影響を与えているとして、環境保護・生物多様性保全法(EPBC)475条に基づく違法行為に対する差し止め命令を求める裁判での判決です(注1)

 この伐採事業にはタスマニアでの木材チップ事業を独占している巨大企業ガンズ社(Gunns Limited)も関わっていることが判決文に記されています。このガンズ社がタスマニアで生産する木材チップの約8割は日本の大手製紙会社など日本市場向けに輸出しているとされており、日本の紙原料調達における環境配慮、生物多様性保全責任をも問われる問題です。

 この判決結果が意味するのは、単に、ウィーランタ地域での伐採事業が違法伐採として伐採停止となったというだけではなく、原告のボブ・ブラウン上院議員によれば、「ウィーランタ地域のみならず、希少種や絶滅危惧種の生息地が破壊されているオーストラリアの他の全ての地域での伐採が違法となる」ということです(注2)。そして、この判決がウィーランタ地域だけに留まらず、州全体に対して大きな影響を持つという点においては、原告側だけではなく、タスマニア州知事も同様の認識を示しています(関連記事を参照)

裁判の対象となっている絶滅危惧種
 今回対象となった絶滅危惧種は、オトメインコ(swift parrot)、オナガイヌワシ(wedge-tailed eagle)、広歯クワガタ(broad-toothed stag beetle)の3種ですが、特に、オナガイヌワシについては、タスマニア全域に生息することから、多くの地域での伐採が違法とも解釈可能な状況となっています。さらにこれら3種以外にも、タスマニア・デビル、オオフクロネコなどEPBC登録種が林業業務から重大な影響を受けている可能性もあります。

   
オナガイヌワシ
Photo: Alister Donnelly
オトメインコ
Photo: T.Tonelli
タスマニア・デビル
Photo: Nomi Nishimura

 判決では、絶滅危惧種に対する保護を行えていないことから、現行のタスマニア林業公社の伐採業務は、地域森林協定(RFA)1997の68条違反となり、EPBCの18条に照らして、その伐採業務が絶滅危惧種に「重大な影響を与えている」と判断され、EPBC違反とされたのです。

 今回の判決は、タスマニア林業公社による対応措置は絶滅危惧種を保護できていないと指摘し、EPBCの厳しい適用を求めており、判決文で以下のように述べています。

判決文281段落
 関連する管理措置(management prescriptions)を適用することによって、州が、その鷲を保護しているとは認められない。管理措置は、鷲の絶滅を遅らせることには役立っているものの、現存数を維持する、あるいは、危惧種となる以前のレベルにまで回復させるという意味では、保護していない。

判決文282段落
 管理措置によって、州は鷲を保護できないだろう。クワガタやインコに関しては、それらを保護しているといい得るには、関連する管理措置によって、タスマニア林業公社がもっともっと積極的な姿勢をとることを、州は要請しなければならない。現在の対応で満足しているタスマニア林業公社を前提とするならば、裁判所に示された証拠に基づいて、将来の管理措置による保護の見込みもないと認める。

広がる判決の波紋
 さて、タスマニア林業公社やガンズ社は、PEFC林業認証プログラムの傘下にあるオーストラリア林業規格(AFS)を取得しています(注3)。しかし、AFSでは(AFS 4.3.2.を参照)、絶滅危惧種の森林群落や、希少種の原生林でなければ、原生林やオールドグロース林であっても、伐採して産業植林地や森林以外への転換が可能です。また絶滅危惧種の生息地であっても、それが「重要な生息地」でないと考えられれば、産業植林や森林以外への転換が可能です。また、「重要な生物多様性価値(Significant Biological Diversity Values)」の保全が述べられていますが、伐採対象地域での確認と評価ではなく、生態学的地域全体レベルでの確認と評価を行うに留まっています。

 よって、AFS認証は評価基準自体が低く、環境配慮としての持続可能性を満たす認証制度とは言いがたいものですが、合法性証明としては利用可能と考えられてきました。しかしこの判決により、AFSは今や持続可能性のみならず合法性認証の信頼性すらも危うい状況にあるといえるでしょう。AFS認証材を含め、タスマニアからの木材チップについては絶滅危惧種へ重大な影響を及ぼしている可能性がぬぐいきれない状況となってきているのです。

 現在、こうした判決に対し、オーストラリア自由党ハワード政権の漁業・林業・保全担当大臣のエリック・アベツ氏(注4)や、タスマニア州知事のレノン氏は、なんと法律改正などの立法行為を通じて、これまで通りの伐採事業が可能となるように、今回の判決による業界への悪影響を阻止する動きにでているとの報道も行われています(注5)

 生物多様性条約に基づき策定された、EPBCによる絶滅危惧種への保護規制を回避しようとする動きは、忌忌しきものであり、原告ボブ・ブラウン氏は、「違法伐採を合法伐採に」するものだと批判しています。絶滅危惧種への十分な保護すらできていない森林伐採が「先進国」オーストラリアで続けられているのです。違法伐採対策としても、なんらかの措置を検討すべき事態ではないのでしょうか?

 豊かなタスマニアの森林が急速に失われ、オナガイヌワシ、タスマニア・デビル、オオフクロネコなど、タスマニアにしかいない絶滅危惧種や脆弱種が地球上から永遠に失われることを放置しながら、無思慮に紙利用を続けていていいのでしょうか?彼らを救うのに、ご協力ください。今なら、まだ間に合うかもしれません…。

補足説明
 EPBC法38条、2002年の地域森林協定(RFA)6条4項の適用除外規定により、RFAに従って行われている林業業務については、EPBCの罰則規定や環境アセスメント手続きは適用免除となっていました(下記の法律文参照)。

 この点については今回の判決においても確認され、「RFAに従って林業業務が行われることを前提とすれば、タスマニア林業公社は、EPBCの38条、RFAの6条(4)により、EPBCの第3部、第9部は適用除外となる(判決文213段落)」と判断しました。 そして、これまでの商業伐採事業はRFAに従って行われていると考えられてきたのです。

 しかしながら、今回の判決によると、「ウィーランタ地域での林業業務は、68条に照らして、RFAに従って行われておらず、将来においてもRFAに従って行われるとは考えられない。結果として、タスマニア林業公社のウィーランタでの林業業務が、EPBCの38条によって、同法第3部の条項から適用除外とはならない。「同様のことが、RFA法の6条(4)に関しても適用される。」(判決文293段落)との判断を示したのです。

 このEPBC第3部と第9部は罰則規定を含むEPBCの中核部です。そして裁判所が、林業業務がRFAに従っていない根拠としたのは1997年のタスマニアRFA68条です。これは「当州は、付属書2(パートA)にリストアップされた優先種(絶滅危惧種を含む)をCAR保護システム(保護区設定)か、 関連する管理措置を利用することによって、保護することに合意する。」と述べたものですが、それらの手段を通じて保護がなされてはいないとの判断を下しました。つまり、上述のように、RFA68条に照らして、絶滅危惧種に対する保護を行っていないことから、 ウィーランタでのタスマニア林業公社の伐採業務は、RFAに従っておらず、RFA違反となり、EPBCの適用除外とはならず、EPBC違反と判断されたのです。

以下は、上記の法律文の内容です。

1999年EPBC18条(3)
 「絶滅危惧種について、(a)絶滅危惧カテゴリーに含まれる登録危急種への重大な影響を与えている行動、または与えるであろう行動、(b)絶滅危惧カテゴリーに含まれる登録危急種への重大な影響を与え得ると考えられる行動を取ってはならない」とされ、「罰金は個人には5000ペナルティーユニット(55万ドル(4840万円))、法人には、5万ペナルティーユニット(550万ドル(4億8400万円))」が課される。

1999年EPBC法38条(1)
 「第3部は、RFAに従って行われるRFA林業業務には適用されない」
この第3部とは上記EPBC18条(3)の罰則規定を含むEPBCの中核部分です。

2002年地域森林協定法(RFA-REGIONAL FOREST AGREEMENTS ACT 2002)第6条(4)
 「特定の連邦法は、RFA木材、RFA林業業務に関して適用しない。環境保護・生物多様性保護法1999の第3部は、RFAにしたがって行われるRFA林業業務には適用されない」

1997年タスマニア地域森林協定(RFA)68条
 「当州は、付属書2(パートA)にリストアップされた優先種を、CAR保護システムか、関連する管理措置を利用することによって、保護することに合意する」

注1 環境保護・生物多様性保全法(Environment Protection and. Biodiversity Conservation Act, EPBC)。またタスマニアの野生動物や森林破壊問題や当判決についての概要解説は、レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表部ホームページを参照のこと(http://treesnotgunns.org/jp)。
注2 原告である緑の党のボブ・ブラウン上院議員のウェブサイト(http://www.on-trial.info/)より
注3 オーストラリア林業規格(Australian Forestry Standard, AFS) http://www.forestrystandard.org.au/
注4 アベツ氏は、タスマニア出身の上院議員も勤めている
注5 種を保護する判決を阻止する法律(Law to block ruling protecting species)(The Australian 2007年1月6日)
    http://www.theaustralian.news.com.au/story/0,20867,21017752-5006788,00.html

その他の関連記事
・裁判所がタスマニアの伐採会社の業務禁止を命令(オーストラリア放送 2006年12月20日報道記事)
  http://www.abc.net.au/news/newsitems/200612/s1815817.htm (原文(英語))
  http://www.fairwood.jp/doc/article_061220.shtml (和訳)

・森林に関する判決、絶滅危惧種を保護(シドニー・ヘラルド・トリビューン 2006年12月20日報道記事)
  http://www.smh.com.au/news/national/forest-ruling-protects-species/2006/12/19/1166290543849.html

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