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1.「持続可能」ではない新築マンションの内装

木村木材工業(株) 代表取締役社長 木村 司 氏

マンションの枠材はシートラッピング材+ラミンが主流
図1 シートラッピングの説明
(木村氏提供資料)
 当社はマンションの建築現場へ無垢の木材で作った造作材(窓枠、ドア枠、押入材など)を納入しています。現在販売されている分譲マンションの95%以上で、プラスチックシートに木目の模様を印刷した化粧シートをMDF、LVL、合板などの基材にラッピングしたシートラッピング材がドア枠や窓枠として使われています。

 一見、無垢の木材のようですが、実体はプラスチックの化粧シートです。但し、下枠は毎日足で踏むので、シートラッピング材ではシートが剥がれてきてしまうため、木材に塗装した材料が使われます。下枠として一番多く使われるのがラミンです。

 フェアウッド・マガジンの読者の皆様はラミンが絶滅の危機にあり、ワシントン条約に抵触することをご存知かと思いますが、マンションの建築現場では、現在でもラミンが指定されています。

 ラミンを指定する一番の理由は、ラミンの木目が塩ビシートの木目模様に似ていることです。たて枠、上枠が化粧シートで、下枠がラミンという組み合わせは非常に多く使われています。組み合わせた場合でも、ラミンの木目と化粧シートの木目模様との差が少ないので、設計者にも、デベロッパーにも、ゼネコンにも、マンションを購入するお客様にも好まれます。

コストとクレーム対策のために絶滅危惧種ラミンが使われている
 マンションでは、購入者が入居する前に内覧会が開かれ、購入者が室内をチェックするのですが、この購入者チェックで非常に微細なことが指摘されることが多くなりました。デベロッパーはクレームをできるだけ少なくしたいと考えますので、できるだけ見栄えが均一なものを求めます。無垢の木材には木目の違い、色の違いなどがありますが、微細な色の違いでも購入者にクレームをつけられることが急増しました。

 そのために、木目を印刷した化粧シートを枠材に使って、できるだけ見栄えにクレームをつけられないよう対応することが主流になっています。ですから、下枠のラミンは木目の化粧シートや合板を基材としたフローリングに合わせて塗装するよう指定されます。

 もう一つの理由は、踏まれる場所に使っても磨耗が少ないことです。よく、下枠用として堅木(かたぎ)を指定する方がいますが、タモ、ナラだと高価になり、予算上使えないので、何か他の材質はないかということになります。ラミンは比較的堅いですし、タモ、ナラより安価だったので、下枠に堅木としてラミンを使用する場合が多くなっています。

間違いだらけのラミン+シートラッピング
 しかし、シートラッピング材とラミンの組み合わせは持続可能とはいえません。シートラッピング材は塗装が不要なので、買ったときの単価は安いですが、廃棄物となって捨てるときに、プラスチックシートと基材であるMDF、LVL、合板などを分離しないと分別ができません。実際には分別不可能と言ってよいでしょう。

 従って、シートラッピング材が廃棄物になった時には埋め立てか焼却しかありません。廃棄物として非常に質が悪く、産業廃棄物業者から嫌われるのがシートラッピング材です。当然、処理費用が高くなります。化石燃料を原料にしている上に、廃棄物として処理が難しいシートラッピング材は持続可能な社会を作るためには、使ってはいけない材料です。

 しかも、化粧シートは結露に弱く、結露水が窓枠に到達してしまった場合には基材が変形して、化粧シートがはがれてきてしまう可能性があります。結露した場合に限らず、経年変化で化粧シートが剥がれることは十分に考えられます。補修をしようにも、枠材の交換は枠周辺の下地を全部壊さないとできませんので大掛かりな作業になり、簡単には出来ません。内装の瑕疵保証期間は2年間ですので、2年経過後に化粧シートが剥がれてきたとしても、保証はされず、自己負担でリフォームをすることになります。

 絶滅の危機にあるラミンを使うことも、持続可能とは言えません。マンション建築業界では、ラミンが絶滅危惧種だということを知らない人が多く、ラミンを求められるたびに、ワシントン条約に抵触して扱えないことを説明していますが、それでも「指定されているから」と言ってラミンを使うお客様は後を絶ちません。

身近なところから「持続可能な社会の実現」について真剣に考えよう!
 私自身は、無垢の木材(絶滅の危機がないもの)に自然塗料を塗り、枠材として使用することが、持続可能な社会づくりに役立つと考えています。無垢の木材+自然塗料の組み合わせは、廃棄物としても土に還すことができますし、化石燃料の使用を抑えます。自然塗料であれば、住む人が自分で塗ることも可能です。

 しかも、水分の吸収・放出をして、室内の湿度調整に役立ちます。廃棄する時の費用を考えれば、シートラッピング材+ラミンの組み合わせよりもはるかに安くすみますし、環境負荷も少なくて済みます。

 現在のマンションには湿度調整をするものがほとんどありません。ビニールクロスに複合フローリング、シートラッピング材にウレタン塗装されたカウンター、そしてポリ合板でできた棚板やポストフォーム・・・。間仕切りも無垢の木材に変わって、LVLや軽量鉄骨の使用が一般的になりました。石油製品ばかりで、水分を吸収してくれるものがほとんどなくなってしまいました。

 しかし、これでいいのでしょうか?
確かに、見栄えの均一性や寸法安定性はよくなりましたが、安くて、見栄えがよければいいという考え方は、シートラッピング材+ラミンの組み合わせを生みました。持続可能な社会をつくれるかどうかは、安くて、見栄えがよければいいのではなく、持続可能な社会づくりをするためにはどんな材料を使えばよいかを各個人が考えて行動することではないでしょうか。

 当社では、シートラッピング材も、ラミンも扱いません。持続可能ではないと思うからです。持続可能な社会づくりに少しでも貢献するために、無垢の木材に自然塗装をした枠材を一人でも多くの方に知っていただいて、使ってほしいと心から願っています。

> 木村木材工業(株) WEBサイト http://www.kimuramokuzai.com                         
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