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1.ブラジル・アマゾンにおける森林減少の動向と今後の課題

在リオデジャネイロ日本国総領事館専門調査員、東京大学林政学研究室博士課程
福代 孝良(ふくよ・たかよし)氏

ブラジル・アマゾンの森林破壊の現状
熱帯林の減少は、全世界の炭素排出量の約2割にも相当する土地利用変化(LULUCF)による排出の主要な要素であり、その取り扱いは、気候変動対策の次期枠組み交渉における重要議題の一つである。FAO(国連食糧農業機関)によると、世界の2000~2005年の純年間森林減少面積730万haのうち、約430万haが南米にあり、アマゾン地域全体では約310万haになる。アマゾン森林は、世界最大の熱帯林であると共に、最も森林減少が進む地域でもある。

ブラジル政府の報告によると、土地利用変化(主に自然植生の農牧地転換)によって1988~94年の間、年間約7億tの炭素が排出されており、94年のブラジル全排出量の75%を占める。このうち約4.3億tはアマゾン地域における排出で、日本の産業部門からの排出量にも匹敵する。そのため森林減少の抑制は昨年12月に発表された国家気候変動対策にも盛り込まれた重要課題の一つである。

2001年から5年間平均のブラジル・法定アマゾン地域の年間森林減少面積は、220万haであったが、ここ数年は、2007年に115万ha、2008年に120万haと半減しつつあり、減少傾向にある。しかし、昨年から公表が始まったデータによると、年間森林劣化面積は2007年の約150万haから、2008年には約250万haへと約1.7倍に増加している。もともと森林減少に基づく炭素排出量の推計の不確実性は非常に高く、単純に森林開発における炭素排出が半減したと言える訳ではなさそうである。

森林減少とアマゾン地域の発展
アマゾン森林は、その膨大な炭素ストックと共に高い生物多様性、水資源保全等の重要性により、世界的に注目を浴びているが、その保全策を考える上では、ブラジル・アマゾンには2,000万人以上が暮らし、ブラジル経済の重要な一部を構成しているという点を理解する必要がある。とくに、同地域は、近年、世界的にも重要な食糧供給地域の一つとなりつつあり、世界経済との結びつきも強くなっている。同地域の森林破壊と主要産業の傾向を見ると、90年代後半以降、大豆、牧畜との関係が強くなっていることがうかがえる(下図)。


かつて1960年代以降は、未開発地域アマゾンのブラジル国家への統合という点から開発が重視され、税制や金融面での優遇措置がとられ、結果的に、生産性にかかわらず森林開拓そのものが重視されてきた。こうした優遇措置による利得を求める開拓が進み、生産性の低い牧草地が急速に拡大した。80年代以降、このようなアマゾン助成政策は国際的な批判を浴び、徐々に廃止されてきた。その結果、一旦は90年代前半に森林減少が抑制された。

しかし、94年以降ブラジルがハイパーインフレから脱却しマクロ経済が安定したところに、世界的な食糧需要増大の波が結びつき、法定アマゾン地域での牧畜や大豆生産が拡大した。ブラジルの牛飼育数は1994年の約1億5,800万頭から2007年には約2億頭に4,200万頭増加したが、この増加分の8割以上の3,500万頭は法定アマゾン地域における増加数である。

大豆についても、同時期のブラジル全体の生産高は191億レアルから926億レアルに4.8倍に増大したが、その増産分725億レアルの17.4%126億レアルが法定アマゾン地域における生産増であった。生産面積で見ると、2007年の同地域の大豆栽培面積は、全ブラジルの約3割を占めている。

かつての生産性の低い開発とは異なり、昨今、法定アマゾン地域は、ブラジル農牧業の発展において重要な役割を果たしつつある。近年の大豆の輸出先は中国が中心であり、牛肉輸出もロシアや中東が増えており、新興国経済の急速な発展と結びついてきた。

森林減少の要因としての入植も無視できない。昨年9月末に、ブラジル環境・再生可能天然資源庁が発表した違法伐採業者ランキングの上位六つが入植事業であった。入植はそもそも個人や法人の違法伐採業者とは性質が異なることもあり、同発表はすぐに訂正され、入植事業地は外されたが、未だ入植にかかわる問題が根強いことを物語っている。

ブラジルは植民地時代以降、効果的な土地改革が実行されず、歴史的に土地分配の不平等が、深刻な問題とされてきた。60年代以降、急速な森林減少を引き起こした「土地なき人を人なき土地へ」のスローガンのもとに行われた入植計画は、土地問題の解決策として進められた。結果的には農業技術もない人びとが、持続的営農方法も確立されていないアマゾン森林に送り込まれることになった。この失敗は未だ繰り返されている。

問題となる開発のパターンは、まず、木材業者により林道が切り開かれ、入植者が残された木材を伐採・販売し、開拓した上で農業を行う。しかし、入植者は農業で持続的な生産を維持することは困難であり、その後、数年で農地を転売し新たな開拓地を求める。長期的には、この転売、放棄された土地が牧場主ら農場主に集積され、大豆栽培や牧畜が行われる。

「持続可能なアマゾン」に向けて
政府は持続的な森林利用促進を掲げてきたが、そもそも持続可能な森林利用は、森林の公益機能を発揮すべく森林被覆を保ち、多様性を保全し生産活動を進めるため、経済的な単一栽培に比べ生産性が低い。そのため農地転換に結びつく活動が先行してしまったと捉えることもできる。いかにこの公益的機能を評価していくかが重要な課題である。

ブラジルの森林減少・劣化による温室効果ガスの削減(REDD)提案としての試験的意味合いを持ちながら、昨年発足したアマゾン森林保全基金は、監視や規制強化のみならず、持続的な森林利用を可能とする支援策、伝統的な森林利用の保障を盛り込むことが重視されている。

法定アマゾン州の州内総生産合計額は、全ブラジルの1割にも満たないが、その地域から、ブラジルの全炭素排出量の約4割の二酸化炭素が排出されてきた。この点から、森林減少・劣化による炭素排出の削減は、産業における排出削減に比べ、その機会費用は低く抑えられるともいえる。他方、同地域において食糧や資源の生産量が増加し、今後も世界への供給が期待される中、同地域全体の経済活動が低水準に留まっていることはこれまでの不均衡な地域発展の歴史の結果ともいえる。

森林減少の問題は、このように歴史的な背景、社会的、経済的な問題が複合的に結びついており、この点を考慮した制度設計が求められる。ブラジル政府は、その点から森林・環境セクターのみならず生産セクターも含めた省庁および各州政府、環境NGO等も巻き込み、5年にわたり議論を重ね、昨年5月にアマゾン開発と保全における協約となる「持続可能なアマゾン計画(PAS)」を発表した。ここでは、まさに均衡のとれた持続的な開発が重視されている。

今後、アマゾン森林保全の取り組みを進めるためには、このような背景を踏まえた協力関係を構築していくことが求められる。

※(財)地球・人間環境フォーラム発行『グローバルネット』2008年9月号(214号)より転載

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