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3.住宅部材としてのSGEC認証材のメリットと課題

斉藤 正さん/高見林業代表取締役

~ フェアウッド建築セミナー2006 in仙台 講演録 その3 ~

 皆さん、こんにちは。私は栃木で山を経営している山林家です。私が持っている山を管理基準に合わせて森林認証をとりました。去年の7月です。

 私の住んでいる所は栃木県の鹿沼です。内陸性の気候で、520mから一番高い所では820mという標高があり、非常に寒くなります。1986年の大寒波の時にはマイナス17度を記録しました。天然ヒノキの北限です。また、関東平野の山すそで都心から約百キロに位置し、首都圏の水がめでもあると同時に、首都圏に多くの花粉を撒き散らす大きな元となっている所です。

 一番近い原木市場まで約35kmあります。一番近いコンビニまでは25km、一番近いスーパーマーケットまでも25kmです。私の所から山で木を積んで市場まで持って行くのに約1時間かかります。

 経営規模としては、現在、226.67haの面積を所有しています。また、人工林率が96%。これは比較的高い数値ですが、皆さんご存知の通り、戦後の拡大造林の波の中でちょっと植え過ぎのきらいがあると私は感じています。樹種比率は、杉が60%、ヒノキが38%です。その他の2%は広葉樹等です。従業員は3人、事務は1人です。経営範囲は、苗木作りから製材販売、木工品、そして今は、施主と行う「家づくりのアシスト」という部分を大きく進めているところです。

林業家に与えられた使命
経営理念
自彊不息

私たちは、林業及び木材業を通じ健全な山林を作ることにより国土を保全し社会に貢献する事を目的とする。

一、山林を経営の基本とし育林に勉め、健康で収益性の高い山を作る
一、研究に勉め、事業の効率化を図る
一、事業の反省点は必ず計画に反映させる>
 当社の経営理念は「時期を選ばず」という言葉です。これは「自ら努めてこれを止めない」という意味で、私は信念として社員にも言い伝えています。「林業及び木材業を通じ健全な山作りをすることにより国土を保全し社会に貢献する事を目的とする」として経営しています。我々林家には第一に「国土を守る」という使命があります。そして「木材を安定して供給する」「山林を次世代に受け継ぐ」と、三つの使命が実現できてこそ、我々は林家であるのです。これをやるがために、行政に頼るだけでなく我々は自助努力をしなければならないと考えています。そこで、我々が何をしているのか、私がやっている小さなことですが、皆さんに伝えていきたいと思います。

 林業をやっていて今一番、何が大変なのか。国も県も町も予算がない。これは当たり前なのです。みな不景気ですから自分だけが苦しいのではないのです。社会全体が苦しいのです。例えば栃木県では森林・林業は県全体の総生産において1パーセント以下ですが、県予算では約3%以上をいただいているのです。以前に比べて削られたと言っても3%以上の血税をいただいていながら、我々は1%以下の生産しかできていないのです。これで県民が納得するかと言えば、非常に難しいでしょう。しかし一方で、公益的機能を維持しなければならないという社会情勢は、栃木県だけではなく皆さんの地域にも共通して言えることではないのかと私は思っています。

 また、この根底には日本の林業が国際的に競争力を失っているという状況もあるのです。これを何とかしていかなければいけないのです。それには認証を取って国際的な競争力の一つの武器として考えていかなければいけないというのが私の考えでもありますし、日本全体でも拓かれている分野ではないでしょうか。

普通のことを普通にやる
 認証制度の中で私はSGEC(『緑の循環』認証会議)を選びました。SGECとFSC(森林認証協議会)どちらを取るかについて、私は4年ぐらい前から悩んでいました。決断したのは3年前です。どうしてSGECにしたかということについて話し始めると長くなるので、今回は割愛します。

SGEC『緑の循環』の7つの基準
基準一 認証対象森林の明示およびその管理方針の確定
基準二 生物多様性の保全
基準三 土壌および水資源の保全と維持
基準四 森林生態系の生産力および健全性の維持
基準五 持続的森林経営のための法的、制度的枠組み
基準六 社会、経済的便益の維持および増進
基準七 モニタリングと情報公開
 SGECでは7つの基準で山を管理することになっています。まったく手探りの状態でやりました。速水林業が日本で最初に森林認証(FSC)を取得した時の山番頭が私の大学の同級生で色々話を聞いていたのです。「斉藤、認証をとるのは大変だぞ!だけどそうしないと将来、俺の木は売れるけれどお前の木は売れなくなるぞ!」と。それが6年ほど前のことで、「森林認証ってどんなもんなのだ」というくらいだったのが、4年ぐらい前からはそういった状況ではなくなってしまったのです。

 材木屋さんでもFSCのマークが打ってあったり、北欧材では別の認証材が往々にして入ってきている。そういうものでないと売れない時代が、私の地元鹿沼でも現実になっているのです。そこで、私もふんぎりをつけて認証を取ることに決めたのです。
 
 私の周りの 実際に始まってみると、認証というのは特別なことではないのです。私たち林家が普段施業していることを一つひとつ明確にしていることなのです。私たち林家は昔から森林基本法に基づいて山を運営してきました。その運営について一つひとつを明確にして、責任の所在とモニタリングを足していけば、自ずと認証森林の基準に非常に近いもの、私は約7~8割まで行くと思っています。

 ですから、ぜひ皆さんに理解していただきたいのですが、森林認証を取る際に自分の会社の山林管理マニュアル作るに当たって特別なことは一切書いていません。今まで私どもで代々受け継がれてきたものを1冊のペーパーにまとめて、少し肉を付ければ十分通るだけのものを我々はやってきたのです。ですから森林認証を広めるに当たってそんなに恐れることはないと私は思っています。

山で準備を整える
 これがうちの45年生の山林です(右写真)。見ての通り上層木に中層木があって下に草が生い茂っている所です。沢筋では水生昆虫や魚など水辺の動植物の保護・管理、または増殖のために水辺に林をつくります。そして堰を作るのです。今までのやり方ではそんなことは考えていなかったのですが、すべて真っ暗だった場所を開けて天然の広葉樹の林を少しずつくっていくということを始めています。また、宇都宮大学と協力関係を結んで山林管理システム・経営のIT化について共同開発をしています。

 こうやってつくられたものをどうやって売っていくか、流通させていくかということでCOCと有産物管理に取り組んでいます。COC認証に載せる場合には、丸太には1本ごとにシリアルナンバーを打ってあります。バーコードを使うという例もあるようですが、なるべくコストをかけないで有効な手法を考えたのです。将来はうちのホームページで丸太の番号を検索すると森林やその山を育てた林家の顔が出てきたりするようにしたいと考えています。

 うちの場合は、今のところまだ動き出してたいして経っていないものですから、家1棟丸ごとの受注というパターンがほとんどです。施主さんとともに設計士さん、材木屋さんという具合に一つのルートができるのです。天然乾燥か人工乾燥か、人乾であれば中温か高温かなどなど色々な選択肢があります。さらに施主さんは葉枯らし乾燥、新月伐採、朝霧伐採など色々な選択肢の中から自分の工程にあったものを選べます。すべての選択肢に我々は対応するのです。

 超急ぎのお客さんの場合には、実は今日来る前に注文書を受け取ったのですが、来月の12日の建て方指定というものでも、当社はOKなのです。というのは、それだけの体制を我々は山で準備しているのです。山に路網が入っていて林業機械が揃っていて、管理というものがすべてSGECの管理マニュアルに則ってきちんとやっているから、そういった注文にも即答できるのです。それができるから工務店さんは安心して仕事を取ってこられるのです。そういうことを我々山側がきちんと提示してあげると、仕事の取りやすさをお互いに進めて、それを単価に結び付けているというのが当社の経営のビジョンなのです。

施主と林家を結ぶ
 山を維持するには何が必要かでしょうか。税金でしょうか。我々が一番求めるのは単価なのです。単価が高くなれば、山に還元して次の植林に結びつくのです。単価は黙っていては稼ぐことはできません。我々が動いていって木の良さをお客さんの喜びとして与えて、初めていただくのが単価だと私達は考えています。それで山を守っていこうということです。

 それで施主に何が返せるかというと、施主の安心と満足感、それに感動まで持っていこうというところです。それで我々は、「我が家の物語を作ろう」という題目で山主と施主さんを結ぶ工務店と材木屋さんの三角関係を築こうと、施主さんに山に来てもらって一緒に選んだ木で家づくりができるよと話しています。

 うちの山に来たら、午前中に発泡スチロールの模型や図面を見ながら設計士さんと打ち合わせをしてもらって、工期や予算などを決めていきます。伐採はこういう手法でいきましょう、では葉枯らししましょうか、高温乾燥しようか、一番玉で大桁を、二番玉で大黒を取りましょうというような話をするのです。その後山へ行って「この木などはどうですか、80年生なのですよ」と。「うちのひいじいさんが植えたんです」「こんな管理をして来たのだ」と話をして、この木を切りましょうと言った段階で誓約書を書いてもらうのです。

 なぜ誓約書を書いてもらうかというと、伐採に参加してもらうためです。伐採のチェーンソーを使うには免許が必要で、我々にもリスクがあるので、譲渡した木を自己責任で切る、その代わり互いに安全を確保するということで誓約書を書いてもらいます。木を切った後には枝や葉っぱをお客さんに持って帰ってもらってプランターに挿してもらうのです。そうすると翌年にできた苗木を持ってきてもらって山に招待するのです。施主さんが切った木の切り株の近くに、その苗木を植えてもらうことにしています。

地域ぐるみに取り組みを広げる
 私はほぼ全員の施主さんから上棟式に呼ばれます。私は行きます。そんな林家はおそらくそんなにいないと思います。そこまで私は施主さんと付き合うことにしています。また、隣の山の所有者が来年からは一緒に認証をやります。あわせて500haぐらいの認証森林を維持することになると思います。

 認証を取るのには金がかかります。直接経費と間接経費を合わせるとおらく200万円以上かかっていると思います。助成金がもらえる訳ではなく、自費でやっています。それを回収しなければいけないのです。

 素晴らしいCOCの仲間(ヒビキ屋、田村材木店、西村材木店、八潮木工、寿)5社の協力を得て私の材木は流れています。それで栃木県内でも認証森林研究会なるものを今後、立ち上げていこうという話も出てきています。われわれの取り組みはNHKでも取り上げられ、他には下野新聞に3回、日経新聞に2回、業界紙に多数掲載していただきました。

 今後の課題としては、森林組合や町単位で認証の活動を栃木県で進めていくということが一番大きいと思います。COCにおいても十分に栃木県の中にも芽生えてございます。ですからあとは供給側の我々がしっかりとしなければいけないと思います。ただ我々の場所が関東のすそ野で、山で食わなくても食っていけるという点が大きなネックなのです。そんな中で実際に山に戻していくにはどうするか。私のような者が一所懸命、声を張り上げて旗を振り、走っているところです。私を見かけた時にはご成約いただければ、私も非常に嬉しい限りでございます。ありがとうございました。
(2006年10月18日仙台市内にて)

> 高見林業 WEBサイト http://www002.upp.so-net.ne.jp/wood-kun/top.htm
                        
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