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4.手軽に行えるGPS端末を利用した木材トレーサビリティ ~一級建築士事務所ミウラクワノパートナーシップの場合

三浦 逸郎さん(みうら いちろう)

~ フェアウッド建築セミナー2006 in東京 講演録 その4 ~

 大分からやってまいりました三浦と申します。本業は建築設計士です。私も原木から製材所までの産直をやっています。今日は、GPSを使って安く森林管理ができるかということをお話します。

 私は東京で仕事をしていました。月並みな話なのですが、長男なものですから「大分に帰って来い」と言われ5~6年前に戻りました。そして、小さな宅地と山ですが、「先祖代々の山なので面倒を見ろ」言われたのです。そこで父親に「どこからどこまでが自分の山なのだ?」と聞いたら「だいたいあの辺からあの辺ぐらいまで」と非常にあいまいなことを言われたのです。それではだめだからきちんと測量をしてくれと頼んだのですが、父親は「とにかく俺が歩いて教えてやるから覚えろ」と言うのです。さすがにこれでは無理だなと思ったのが、このような取り組みをするきっかけです。

 現在では、誰でも使われている携帯の中でGPS機能が付いたものを利用してAjax技術を活用して、簡単に森林マップが作れるのではないかなという思いからスタートしました。そして、山から製材所を通ってお客さんの手元までの木材の流れをウエブ上で見られるようにして、エンドユーザーに知ってもらうための仕組みづくりをしています。

久山の家プロジェクト
図1 久山の家プロジェクトとは
(三浦氏発表資料から)
 福岡県に久山町という町があります。天神から20~30分ぐらいの所にあります。市街化調整区域が97パーセントと変わった都市計画をされていて、ほとんどが森林や田んぼです。そこで都市計画を進めながらその木を活用した家づくりをお手伝いしています(図1)。久山町役場にあった森林簿によると80年生の木が結構あったので使えるかもしれないということで、森林調査をしてみると半数は戦後の拡大造林されたもので、50年生ぐらいでしかありませんでした。その中でGPSを利用しながら森林簿との違いを調査してみました。また、原木の段階から部材ごとにナンバリングをして、生産者責任の明確化や生産性の向上をうたっています。2005年度から森林調査を始めて、翌年の12月末には家が1棟できあがりました。

 選木では、切る木にテープを巻いて木材の元玉の方に番号を振って、樹種と胸高直径を計ります。その時にGPSで位置をとります。GPSにはトラックという軌跡をとる機能があります。切る木の写真を定期的に撮ります。デジタルカメラに記載される時間とGPSの時間を連動させる操作をすると、時間と場所が記録されていきます(図2、3)。山から土場、製材所と各ポイントで写真を撮り、GPSと連動させていくことで、木材の動きをトレースする情報を集めることができるのです。

 構造材に関してはほぼ100パーセント、1本ごとのトレサビリティを把握できました。これだけのコストをかけて本当にメリットがあるのか、そこまで追いかけて何の意味があるのか、設計士の独りよがりではないのか、などなど厳しい意見もあります。そこで今後の方向性と課題ということで、トレーサビリティ情報の開示の範囲と住宅購入希望者とのコミュニケーション・ツールづくりについて話をしたいと思います(図4)。



図2 選木の過程
(三浦氏発表資料から)
図3 原木伐採
(三浦氏発表資料から)
図4 今後の課題と方向性
(三浦氏発表資料から)


GPSで山と消費者がつながる
図5 クローズドな表現
三浦氏発表資料から)
 グローズドな表現として、カシミール3Dというフリーソフトを使って、森林管理マップを作ることができます。カシミール3Dとコンピュータ、それにGPS端末とデジタルカメラがあればできます(図5)。オープンな表現は少し厄介です。今、ウェブ上に試験的に公表しています(図6)。

 このようなやり方の実例として、昨年ドコモと社会実験したマップ作りを紹介します。キッズ携帯を使って小中学校をフィールドに森林マップを作ってみました(図7、8)。

 住宅購入希望者とのコミュニケーションづくりをどうするのかということで、ブログを活用して交流を図っています。森林組合の職員からは「俺はとにかく、文章を書くのが嫌だよ」と言われているのですが、携帯電話からブログに文章や写真をアップできます。そこで山の人に「毎日、山の写真だけを送れば絶対、消費者の心に響くよ」と言って勧めています。ある日、森林組合の人が「僕の見ている山はこんな山だけど君の山はどんな山か?」とブログで問いかけてみたら全国からさまざまな山の写真が集まってきたというエピソードもあります。

 森林関係者は頑張っているのですが、世間からなかなか評価をしてもらえていないのではないのかと思います。どうしても周りが見えませんので、ウェブが全部良いとは言いませんけれども、「俺も頑張っているけれど、あいつも頑張っているね」というのが見えるので、ぜひ皆さんもやってもらうと面白いのではないかと思います。

図6 オープンな表現
(三浦氏発表資料から)
図7 NTTドコモの場合
(三浦氏発表資料から)
図8 NTTドコモとの事例
(三浦氏発表資料から)

 エリアブログといって、それぞれのブログを集めることで地域の活動が集まり、色々な人に伝えることもやっています。

 オープンな木材トレサビリティ・ネットワークの構築を目指して試験的に公開しています(http://pluseco.main.jp/)。関心のある方はどうぞご覧ください。

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