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トップ>ニュース>メールマガジンバックナンバー第21号3.近くの山の木を活かした住まいづくり ~SGEC認定事業体としての今後の展開

3.近くの山の木を活かした住まいづくり ~SGEC認定事業体としての今後の展開

小山幸治さん/新産住拓(株) 代表取締役会長

~ フェアウッド建築セミナー2006 in福岡 講演録 その3 ~

国産材の流通という視点から話をしたいと思います。私は熊本の人吉・球磨地方で仕事をしています。私の前に、先に話をされた小椋さんの生まれ育った村も球磨村です。ここには、この地方で一番大きな森林組合があり、この地域には30軒を超える製材工場、市場は6ヵ所あります。熊本県の木材産出量が53万m3、そのうち人吉球磨では33万m3と、半分以上を産出しています。それなのに、なぜ小椋さんはその県産材を使わずに宮崎まで行かれるのでしょうか。

それほど、国産材の流通は非常に古い伝統があって難しいのです。「この業界はまだ明治維新前だから、タイムスリップして考えなければ付き合っていけないぞ!」と言われ、なるほどな、と昔は思いました。しかし、そんな業界も今、大きく変わりつつあります。ここ3年ぐらいで大きな変革、いわば明治維新が起こりつつあるということだろうと思います。

国産材をいかにうまく活かすか
私は国産材をいかにうまく活かすか、という視点で取り組んでいます。新産住拓は創業43年で、累計新築住宅は4,000棟です。年間約200棟、原木ベースで約10,000m3、製品ベースで7,000m3、全部天然乾燥の木材を使用しています。場所さえあれば、風向きを考えて原木を切って置くだけで、コストも高くありません。杉の品質を活かして、人工乾燥のコストよりは安く上がります。

少なくとも産地では、現在は国産材のほうが外材よりも安いのです。私たちは、素材生産業者から買ったり、または原木を市場で買ったりすることで、提携の製材所と仲良くしています。ここで大事なのは、素材生産業者への注文方法です。家を一軒作るとすると、木出し明細から、どの木をどのくらい使うということは分かります。例えば大黒柱は、8寸のものが大体1、2本必要となるので、100棟であれば150本あれば良いことになります。熊本では3.3mの長さが必要なのですが、市場で販売しているのは4mのものだけです。素材生産業者には3.3mで150本や200本切ってほしいと言って、こちらで使用する部材寸法を明示して協力してもらいます。協力工場の製材所で、目的を持って買った原木を目的に従って製材をしてもらうことで、無駄が少なくなります。

図1 新産住拓のビジネスモデル
(小山氏発表資料から)
図1 新産住拓のビジネスモデル
(小山氏発表資料から)
こういう顔の見える関係の中、葉枯らし生産で有名な泉林業へ、例年は大体4,000~5,000m3、今年は約6,000m3を発注しました。そこから住宅会社である当社が直接購入し、それを尾方製材に持っていきます。原木の長さや数量は、全部使用目的によって発注が分かれているので、これに基づいた製材指示を出します。山元にも使用目的を書いて発注しています。プレカット工場でロスが出た場合、社員に聞くと「これも他に活用しています」と言っていましたが、ロス材は最初から出ないのが一番良いわけです。

使用する目的は分かっているので、それに合わせて原木を発注しています。当社は一社で150~200棟受注していますが、同じようなやり方を30棟ぐらいの建築会社数社で、設計基準や木材使用を統一して、製材所と打ち合わせができれば面白いのではないか。今は製材所や木材流通もかなり変わりましたので、製材所が話に乗ってくれると思います。

また、切旬(きりしゅん)についてですが、当社は9月になってからでないと伐採しません。切旬の材は艶が良いし虫が付きにくく、乾燥をしやすいのです。

泉林業の素材(原木)約5,000m3は近くの山の葉枯し材で、昨年70%は製材所までトラックで約30分(人吉・球磨材)、あと30%が隣接の水俣市からで、約60分の山の原木です。乾燥は天然乾燥、近くの山の木で、化石燃料を節約、環境負荷の少ない住まいづくりの実践です。このシステムなら、外材と十分戦えると私は確信を持っています。決して国産材が高いのではなく、外材の方が高いのです。木材流通も大きく変わりつつあります。

尾方製材は年間5,000m3位の素材製材業者です。今年の春、新しい機械に入れ替えました。土地が足りないということで、1反あたり50万円の土地を3反(約1,000坪)買って、それに整地費を150万円かけました。ここに2,500m3位の原木が置けます。

球磨郡多良木町には木材流通団地があり、その多良木に約9,000坪の敷地を有しています。そこの倉庫上には太陽光発電を載せ、風のない時には太陽光発電で扇風機を動かしています。

「君は国産材を守れ」
図2 人吉木材工業団地内土場
(小山氏発表資料から)
最近、地元の熊本日日新聞社が県内の森林の不法伐採、植林放棄のことでキャンペ-ンをしています。そんな時、静岡県の菊池建設(株)の副会長、中尾由一氏から森林認証(SGEC&CoC)のことを聞き、すぐ認証をとりました。幸い、認証(SGEC)をお取りになっていらっしゃる、(株)南栄さん(日本製紙の山)や、近くの田爪林業さんにお世話になり、認証材を昨年3,500m3、本年も3,500m3、供給していただき、現在、製材、天然乾燥中です。当社で使用する原木1万m3の内、約3分の1が認証材となります。

昔は「国産材は環境に良く、山を守るから、少々高くても買いなさい、使いなさい」とだいぶ言われました。国産材を使うか使わないかを決めるのは、エンドユーザーである、お客様です。買う人が決定権を持っているのですから、買う人に良いものを安く、楽しみを添えて提供しなければファンにはなってもらえません。「いかに国産材を安く提供するか」ということを、木を使う側が考えなくてはいけません。現在、当社は人吉・球磨に2ヵ所の工場を持っています。本当は原木のストックヤードがあって、横で製材をし、その横で天然乾燥をして、又その横にプレカット工場があって、原木の入荷から、出る時は部品化して出て行くのであれば、木材の横持ち(運賃)の料金が抑えられてコストが安くなるだろうと思います。しかし、現実には20分離れた所に6,000坪と9,000坪ぐらいの敷地を確保して、2ヵ所に分かれて作業をやっています。

当社は、平成7年に、分収林に個人と法人で、約600万円出資しています。山の再生についてもお手伝いをしています。林野庁の長官表彰などももらっていますが、昨年から国有林10ヘクタールに12,000本、杉や山桜、山栗を植え、楽しい山にしようと挑戦しています。

流通面で、20年前に、迷って外材活用を考えました。しかし、私の先輩が「やがて国産材の時代が来るから、君は国産材を守れ」と言ってくれました。今、明らかに国産材の夜明け、と私は感じています。

当社が葉枯らしを取り組みはじめたきっかけは、過積の問題で、重量の制限違反にならないように乾燥材にしました。乾燥させると、軽くなるので輸送コストも下がります。葉枯らし天然乾燥材の評判は、大工さんの間でも良く、専門家ほどよく知っています。100度や110度での高温乾燥をしている製材所の社員が「自分の家は葉枯らし、天然乾燥の木で作った」と言っていましたが、林業関係者の中でも葉枯らし、天然乾燥材を使っている人が多いのです。料理の世界では職人さん、板前さんは、食材の持っている自然のままの味を、いかに引き出すか、素材の味を引き出すのが彼らの腕である、と言われています。

でも、高温乾燥は、問題があります。当社は産地で、葉枯らしの天然乾燥ができます。地域社会に何で貢献するかと考えたとき、住の分野で、省エネルギー、環境負荷の少ない方法での住まいづくりの実践が、新産住拓(株)の使命だと考えています。これは自然の摂理にかなったことと考えています。

図3 木材生産現場ツアーの様子
(小山氏発表資料から)
安定供給は山元と仲良くすることから
当社は人と環境にやさしい健康住宅が「テ-マ」です。シックハウスや喘息などには、木の家の評判が非常に良いのです。例えば、押入れの中に杉、ヒノキを使うと、ダニは80~90%は死滅します。全くゼロにはなりませんが、激減するのでダニの少ない家になります。これは森林総研の宮崎博士などが科学的に証明しています。

10月8日の「木の日」の前日、NPO「地球の会」と一緒に「山に行こう」というイベントを行いました。全部で50組のご家族に来ていただき、山の葉枯らし、及び梨狩りをご案内しました。杉の伐採現場で機械を使った実演は非常に喜んでもらい、翌日、地元の新聞に掲載されました。この行事をすでに10年間、年に2回開催しています。今回は、「国産材に関心を持って」という、NPOの主催でしたが、現場は新産住拓として紹介してもらいました。

SGECは今後増えていくと思いますが、熊本では小国町の森林組合が取得したため、森林組合の宣伝がマスコミに出ます。当社もSGECに入っている訳ですから結果的には当社の宣伝にもなっています。

国産材は高いのではなくて、安定供給の問題をどう解決するか、山元と仲良くするのが一番賢いと思います。流通経路の短縮は可能です。当社の住宅生産システムの根幹は、150棟~200棟の安定受注に支えられています。これは血と汗の結晶で、受注に多くの社員が頑張っています。住まいづくりは、木材だけではなく設計のレベルや施工のレベルが大切です。同じ設計でも、施工がAさんとBさんでは全く違った家になります。施工品質、職人グループの品質の問題、それにアフターサービスの問題といった全体的な問題を解決しなければ住宅は売れません。売れなければ、国産材も使えないということになります。そして、売るためにはお客様の支持が必要です。その支持を得るために、色々な努力や苦労をしています。正直なところ、怖い思いをしながら毎年一生懸命努力を続けています。これが現実です。

最近、地元の新聞はSGECについてよく取り上げます。今日の新聞にも県内民有地の未植栽地が12パーセント昨年より減った、という記事がありました。こういう記事が度々掲載されているので、それを見ながら、私もSGECに取り組んでいることを誇りに思っています。同時に、もう少し森林組合あるいは国有林、県有林など公的な所は、SGECの森林認証を積極的に取られるのが筋ではなかろうかとも考えています。
(2006年10月12日福岡市内にて)

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