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フェアウッド・メールマガジン第38号 2010年8月13日発行

生物多様性を守る消費行動
~サプライ・チェーンの最上流を見つめよう(続き)

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■コピー用紙編

コピー用紙をたどってみると

コピー用紙は、3割以上が海外から輸入されている(注5)。輸入割合は増加傾向で、2000年頃には10万トン程度だったものが、2004年には40万トンと4倍になっている。輸入コピー用紙の中でも大きなシェアを占めるのがアジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)社の製品である。ここでは同社が操業を行っているインドネシア・スマトラの状況を概観する。

スマトラ島では、1985年から2007年までの間に、1,200万haの天然林が消失した。このことにより、スマトラトラ、スマトラゾウ、オランウータンといった広い生息地を必要とする大型哺乳類の生息地が消失し、人間との衝突・事故も多発するようになった。生息地の縮小や分断に伴い、小さな森に追い込まれたゾウが、プランテーションを荒らし、人間により毒殺、銃殺、捕獲されていることも報告されている(WWFインドネシア、2006)。森林の減少要因としては、移住による開墾、パルプ用植林、パーム油用アブラヤシ農園の拡大、道路建設、違法伐採などが挙げられている。

搬出される木材(リアウ州、APP関連会社)

森林減少は、とりわけ、リアウ、ジャンビの二つの州で生じている。リアウでは、1982年から2007年の25年間で、もともとの森林被覆640万haが220万haにまで減少し、そのうち200万haもの天然林が、パルプ用アカシアおよびアブラヤシのプランテーションに姿を変えた(Uryu, Y. et al. 2008)。中でも紙パルプ企業であるAPP社とApril社の二社の操業は、国際的NGOから、天然林の破壊や地域住民への人権侵害が指摘され続けてきた。

Eyes on the ForestなどのNGOによれば、1980年代の操業開始以来、APPはパルプ原料を得る目的で100万ha近いリアウ州の自然林を伐採してきており、これはリアウ州で失われた自然林の3分の1に該当するという。また、2001年以降も、45万haの自然林伐採を実施しているという。

日本でも、こうした問題を重く見たリコー、オフィス・デポ、イオンなどの企業は、APPやApril社からの購入をとりやめたが、アスクルやコクヨなどは購入を継続している。また、多くのコピー用紙がチェーンストアなどで安売りされている(注6)。

植林地を造成するために破壊された泥炭林。April社関連会社による開発。水抜きのため運河を掘削するが、このとき大量の温室効果ガスが発生する。
(リアウ州スンガイトホールにて2010年6月撮影)

「認証だから大丈夫?」
「植林だから大丈夫?」


2009年10月、APP社はインドネシア・エコラベル協会(LEI)の認証を受けた紙製品を販売、輸出することを発表した。

LEIが認証を行なったのは、APPのパルプ材サプライヤーのウィッラカリヤ・サクティ社(WKS)のサイト約25万ヘクタール。アカシア、ユーカリの植林地である。2009年に入って5つのAPPの製紙工場がLEIのCoC認証を取得している。APPはこれにより、LEI認証紙の供給が可能になったとし、日本の企業に購入を呼び掛けた。

APPの施業のうち、もっとも強い懸念を呼んでいるのは天然林を皆伐とその植林地への転換である。森林認証の代表格であるFSCは、1994年以降の天然林から植林への転換を認めていないのに比して、LEIは、このような明確なカットオフは設けておらず、「環境社会的なリスクを鑑みて評価している」(注7)としている。

しかし、11月、多くのインドネシアのNGOが、「LEI認証付きでも、APP社の紙製品は持続可能とは言えない」とする共同記者発表を行い、以下を指摘した(注8)。

WKS社の伐採許可区域では、認証審査中であるにも関わらず、2007年から2008年の間に、残されていた天然林のうち計48,000ヘクタール(59%)以上が失われた。またWKSの伐採許可区域の31%は泥炭地(注9)にあり、2000年の時点ではその60%以上が天然林に覆われていたが、その半分近くがアカシアの植林地に転換された。2007年から2008年の認証審査期間中にも、WKS社は伐採許可区域内に残された泥炭林の70%近く(20,353ヘクタール)を伐採し、天然林はアカシア植林の間に小さく断片的に散らばるのみとなってしまった。
WKS社が森林認証を取得する植林を開発するために、土地から農民を立ち退かせた。


日本においては、先進的とよばれる企業が、森林生態系を守るために、木材や紙の調達方針の中に、①植林木からの調達、②認証木材の取り扱い拡大――を含めている。

①については、確かに天然林への圧力を回避するために、今後植林の重要性は高まっていくものと思われる。しかし、スマトラのケースのように、天然林が大規模に植林地に転換されていくような事態も多々見受けられる。植林木であるから大丈夫ということではなく、その土地がどのように確保されたものであるのかということについても確認することが必要である。

②については、確かに通常であれば、認証された木材は、森林の持続可能性に関しての第三者機関による厳正な評価が行われているはずであり、信頼性は高いはずである。

しかし、上記のような事態は、LEIの森林認証制度そのものの信頼が問われかねない。LEIは天然林からの植林への転換について、もう少し明確な基準を示すべきであろう。さらに、個々のサイトを、機械的に技術的な指針に沿って認証するような手法には限界があり、対象企業グループ全体の操業影響を評価する基準も必要であると考える。

生物多様性を守るための消費行動とは

それでは私たちはどのような点に考えて行動すればよいのか。または、企業にどのような点についての配慮を求めていけばよいのか。

まずは、「選んで買う」というアクションが考えられる。例えば、あなたが信頼できると思った企業の製品、信頼のおけると思われる認証品、リサイクル商品などを選んで買うことだ。生物多様性破壊に寄与しているものを「買わない」という選択肢もあるだろう。

さらに、「気になるポイント」を企業に伝えていくことも重要なアクションだ。たとえば、すでに法律で保護されているか否かを問わず、原生林、貴重種の生息地となっている森林、地元の住民が生活や文化のよりどころとしている森林、先住民族の慣習地など、国際的な基準に即して「保護価値が高い」とされる生態系を保全するようなルールの確立は、早急に求めていきたいポイントである。 

そして、なによりも重要なのは、「必要のないものは買わない」「長く大切に使う」「寿命を終えたらリサイクル」ということを心がけることだろう。

現在の生態系の危機の根本は、人間の産業活動が地球の環境容量を超えてしまっているところにあるのだろう。

新興国の経済成長に伴い、世界規模で自然資源、鉱物・エネルギー資源や農産物に対する需要が急拡大し、それらを生産するための土地が少なくなっているのが現状である。これらの資源への需要の拡大は、必然的に自然生態系への開発圧力を生んでいる。

先進国が生み出した大量生産・大量消費に頼った経済成長モデルは、グローバリズムの波にのって、そのまま新興国や途上国で複製されようとしている。

拡大を続ける資源多消費型の社会が持続不可能なことはもはや明らかだ。日本には大量生産・大量消費にも頼らなくても、豊かで幸せな社会を実現することが可能であるというモデルを示すという大きな役割が求められている。

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(注5)熱帯林行動計画(JATAN)調べ。
(注6)Rainforest Action Network日本代表部調べ
(注7)2009年10月20日に都内で開催されたセミナーにおいて、筆者の質問に対するLEIアグン・プラセトヨ氏回答。
(注8)2009年11月19日共同記者会見資料、<インドネシアのNGOのコメント:「LEI認証付きでも、APP社の紙製品は持続可能とは言えない」>WWFジャパンによる仮訳
(注9)泥炭地とは、枯死し不完全な分解状態にある植物の遺体が、そのまま浸水した条件下で堆積した土地である。生物多様性や水の調整・浄化能力といった機能に加え、「巨大な炭素の貯蔵庫」としての役割を持つが、プランテーション開発により、排水され造成されると、蓄えられた大量の炭素が大気中に放出される。

■引用・参照文献
・ 総務省(2009)「情報通信分野におけるエコロジー対応に関する研究会報告書」
・ 満田夏花(2009)「日本の金属会社や商社にも批判 持続可能な金属資源利用が必須に」 (日経エコロジー編「生物多様性読本」2009年7月)
・ JOGMECカレント・トピックス(平成22年5月27日)「採取産業の透明性イニシアティブ(EITI)の仕組みと動向(その1)」
・ WWFインドネシア「WWFモニタリング報告書2006年10月:アジアパルプアンドペーパー(APP)」 
・ 2009年11月19日共同記者会見資料、<インドネシアのNGOのコメント:「LEI認証付きでも、APP社の紙製品は持続可能とは言えない」>WWFジャパンによる仮訳
・ Revenue Watch international. July 15, 2010. U.S. Financial Reform Sets New Standard for Energy and mining Industry Transparency
・ APP. 2006 August 15. APP Stakeholder Update
・ World Resource Institute . 2003. Mining and Critical Ecosystems - Mapping the Risks
・ Eys on the Forest, October 2008. Asia Pulp & Paper Threatens Senepis Forest, Sumatran Tiger Habitat, and Global Climate
・ Uryu, Y. et al. 2008. Doforestation, Forest Degradation, Biodiversity Loss and CO2 Emissions on Riau, Sumatra, Indonesia. WWF Indonesia Technical Report


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