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vol.9 山と街、人と人とがつながる 木のある暮らし

日時:2010年2月17日(木)11:00-13:00
場所:エココミューン山ノ神(熊本県熊本市)
フェアウッド・アイテム ①地域材のエコ賃貸住宅 エココミューン山ノ神
話し手:松下 修さん(松下生活研究所代表)
フェアウッド・アイテム ②諸塚コナラ材のテーブルチェアとインテリア小物
話し手:中澤 健一(フェアウッド・パートナーズ)
フェアウッド・メニュー 地元無農薬ご飯&諸塚産原木しいたけのお味噌汁

 ☆講師プロフィー
松下 修さん (松下生活研究所代表)
1985 年に設計事務所を設立、その後コンサルティング業に転身、農林水産業の再生支援、自然素材・産地直送の顔の見える家づくり事業などのプロデュースを手がける。宮崎県諸塚村の産直住宅事業の立ち上げに関与するとともに、提携する工務店グループを形成、FSC-CoC 認証も取得した。現在、屋久島の地域活性の為に人工林再生の取り組みをしている。NPO 法人パーマカルチャーネットワーク九州代表理事、NPO くまもとソーシャルバンク副理事、熊本大学非常勤講師、公共政策学博士。

今回の講座は、熊本市内に昨春オープンした木造賃貸住宅「エココミューン山ノ神」(写真上、以下「コミューン」)にお邪魔して開催しました。6棟の住宅に使われた木材は、すべて宮崎県・諸塚村のスギ。空間のデザインから人間関係まで「つながり」をコンセプトにすると、自然に「エコ」になったという「山ノ神」。その背景には「現代日本が失いつつある価値観を復活させたい」という仕掛け人の願いがありました。そんな仕掛けや諸塚の山について学んだ後は、地元で採れた有機野菜や諸塚産原木しいたけたっぷりのランチ。アットホームな空気の中、参加者同士の新たな「つながり」が会場のそこかしこに生まれていました。

 

日本の伝統的共同体がヒント

 

最初にお話いただいたのは、「コミューン」の“仕掛け人”こと、松下生活研究所代表の松下修さん(写真上)です。松下さんは以前から、環境にやさしく安全で、住民同士が信頼し合って気持ちよく暮らせるコミュニティ作りを考えていたそうです。

かつての日本の農村は、信頼関係で成り立っていて、農作業や年中行事、育児や介護などで支え合う互酬関係がありました。ところが、数年前の調査で、フィンランドや韓国に比べて日本では他人を信頼せず、警戒し合っている傾向にあるということがわかりました。松下さんは、こうした変化の背景に、かつては労働力を提供し合って地域材で建てていた家が、お金で買う商品になってしまったこともあると分析。そこで、木材の産地も工務店も建築家も住まい手も「互いに顔の見える家づくり」を考えたのだそうです。地元熊本に東西に長い土地が見つかり、エコ・コミュニティ作りが実現しました。

「コミューン」は、2階建て木造住宅6棟から成ります。各戸の間に境界はなく、通り抜けは自由。南側の共有地にはベンチやテーブル、果樹園や農具入れを設け、入居者同士が交流しています。今後は豚や鶏の飼育もできないか、話し合うそうです。家賃は月8万5,000円。口コミで集まった30代から70代が入居しています。

諸塚村は2004年、日本で初めて村ぐるみでFSC認証を取得。「九州の家は九州の木で」と産直住宅の供給に力を入れたところ、それまで落ち込んでいた林業は活気を取り戻したそうです。熊本市で家を建てるのに、輸入木材を使うと輸送過程で大量の二酸化炭素(CO2)を排出しますが、諸塚材ならその84.51%が削減できます。なるべく天然素材を使おうと、「コミューン」の壁には珪藻土を採用しました。湿度は自然に40~70%に調節され、気温も、屋外が4度の時、室内は15度と暖かいそうです。

松下さんは、そんなエコ・コミュニティづくりを振り返って、「論理性や合理性、効率といった価値基準は、今や見直す時。曖昧さやいい加減さの中で折り合いをつけていた日本の伝統的共同体には、自然も含まれ、エコや持続可能といったことは概念すらなかった。人も自然も“お陰さま”でつながる関係があれば、安心でエコな暮らしになるんです」と、「コミューン」に込めた思いを話してくださいました。実は松下さん自身、ここの住人。東端の棟の2階に事務所を構え、すでにご近所の“たまり場”になっている1階ではセミナーやワークショップを開催してきました。今後は、熊本の「フェアウッド・カフェ」の拠点として、毎月一回イベントを開催することにしています。

 

地元の米&野菜&諸塚産しいたけでランチタイム

松下さんのお話の後は、お昼御飯です。「コミューン」のスギが育った諸塚村は、日本のしいたけ栽培発祥の地でもあります。新鮮な原木しいたけをふんだんに使ったお味噌汁と、野菜たっぷりのカラフルなお弁当(写真)が振舞われます。お弁当を作ったのは、地域の主婦グループ「やさいのこころ」。介護などで忙しい主婦や一人暮らしの若者、キッチンに立つのが難しい高齢者らに、安心・安全で栄養バランスのいい食事を提供しようと、昨年末に発足し、地域の有機野菜やお米にこだわって作っています。「もっとネギ入れますか?」「玄米は噛み応えがありますね」―会場は一気ににぎわい、和やかなランチタイムとなりました。
 

しいたけ栽培には大き過ぎる原木の活用

午後の部は、フェアウッド・パートナーズの中澤健一(写真上)による、諸塚村のもう一つのフェアウッド・ストーリーをお聞きいただきます。諸塚村から全国に広がったといわれる原木しいたけ栽培。以前は、全国各地の里山でクヌギやコナラといった広葉樹が、しいたけの榾木(ほたぎ)や薪炭として日常的に活用されていました。ところが、化石燃料が薪炭に取って代わり、海外から安いしいたけが流入するようになると、里山の広葉樹は放置されてしまいました。諸塚村も例外ではなく、しいたけの原木としては大き過ぎる木が伸び続けています。そこで、こうした木々で家具や小物を作って販路に乗せようと、フェアウッド・パートナーズでは昨年、諸塚村やインテリアショップ、木材加工会社などと「諸塚村里山広葉樹活用プロジェクト」を立ち上げたのです。

プロジェクトでは、昨夏初めてコナラとミズナラの原木を製材、12月にテーブル&チェアの試作品(写真上)を完成させました。家具には通常、直径50~60センチ以上の大木が使われますが、今回使った木はしいたけ栽培には大きいとはいえ直径20~30センチ。しかも、半年以上野ざらしにされていた材と、初夏に切ったばかりで乾燥が不十分な材だったので、割れや曲がりがひどく虫穴や黒かびもあって苦労しました。それでも、モダンなテーブルとチェアに加工され、端材では温湿度計や靴べらなどの小物を試作。東京ビッグサイトや表参道などで展示したところ、「かわいい」「欲しい」と大変好評でした。プロジェクトでは今後、安定した品質の材を用意することと産直的な販路開拓に力を入れます。また、出産や入学、結婚などのギフトに採用してもらえないか、自治体や企業等への提案もしていく予定です。

中澤が「生活に密着していた里山にほとんど人が入らなくなって、奥山との区別がつかなくなってきている。植生や景観を崩壊させないためにも、里山の木を使って生活に生かすという本来のあり方で、プロジェクトを発展させたい」と意気込みを述べたところで、質問タイムに。FSC認証の仕組みや「コミューン」入居、薪ストーブの薪を諸塚の広葉樹にするアイデア等について、活発な質疑応答が展開しました。終了時間を回ってお開きとなっても、皆さんの名刺交換や意見交換の声がいつまでも会場に響いていました。

地元玉名郡の山林組合で働く予定だという自営業の男性(32歳)は、「以前も林業に携わったが、手取りが少なく1年で辞めてしまった。安ければ何でもいいというのではなく、本物を売り買いしようという価値観が広がってきたことがとても嬉しい。松下さんのお話を聴いて、誰かが作った世界に入るのではなく自分で作らなければ、と思った。ボクらの子どもの代も森の恩恵を受けて生きられるよう、山の資源を活用したい」と感想を話してくださいました。
 

☆今日のキーワード【コミュニティ林業】
木材の流通は一般的には、伐採→原木市場→製材→製品市場→木材問屋→工務店→施工現場という流れをたどります。市場や問屋を通して、様々な種類や寸法の木材製品が欲しいときに欲しい量だけ購入できるようになっています。その一方、他段階の取引を経ることで、中間コストは大きくなりがちです。木材の価格は製品のマーケットでほぼ決まってきてしまいますので、そのしわ寄せはおのずと山元へと押し付けられがちです。いま全国各地で林業経営が成り立たない状況になっています。50年以上かけて育てた木を伐採しても、山元にはほとんどお金が残りません。そのため、全国各地で放置されたままの山が荒廃して問題になっています。

そうした状況を改善しようと、山元と直接つながった家作りをしていこうというのが、産直木材による家づくりです。産地の森やその森を管理する人、製材所、工務店、施主の顔がお互いに見える関係を築くことで、余計な輸送・流通コストを省きながら、それぞれが必要とする適切なコストを負担できるようになります。そうした産直木材による家作りをしているネットワークは「顔の見える家づくりデータベース」に登録されているだけでも全国に170近くあります。

エココミューン山ノ神に使われている木材も、宮崎県諸塚村からの産直木材です。葉枯らし天然乾燥した杉材を、諸塚村の森林組合の工場で製材して現場まで直送しています。村の人たちが大切に育ててきた森を、村の人たちが伐採、搬出、製材した木材です。日本国内でも、フェアトレードですね。
 

☆フェアウッド・メニュー 【諸塚産原木しいたけのお味噌汁】
日本のしいたけ栽培の発祥の地といわれる宮崎県諸塚村。しいたけ作りに最適な条件がそろっている諸塚村で原木栽培されたしいたけをたっぷり使用しました。村で代々受け継がれてきたしいたけは、クヌギ・コナラの元気な森のエネルギーがたくさん詰まっています。豊かな香りと食感を楽しんでください。  

【協力】 エココミューン山ノ神
熊本市内に2010 年3 月に竣工したエコ賃貸住宅(全6戸・2階建て)。宮崎県諸塚村からのFSC 認証の杉材をふんだんに使用。葉がらし天然乾燥された杉材は、サーモンピンクの色合いが美しく、室内はさわやかな香りで満たされています。
TEL:096-202-4136 FAX:096-202-4055

【主催】 フェアウッド・パートナーズ
URL:www.fairwood.jp
Eメール:info@fairwood.jp
TEL:03-6907-7217(FoE Japan 中澤・中畝)/03-3813-9735(地球・人間環境フォーラム 坂本)


※本講座は環境再生保全機構・地球環境基金の助成を受けて実施しています。

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