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Vol.7 木造民家の改築で快適モダンな暮らし

日時:2011年1月15日(土)14:00-16:00
場所:ホリデーハウス「夏霞」(京都府京都市)
フェアウッド・アイテム ①中古木造民家のリノベーション
話し手:藤井博周さん((株)八清工務部)
フェアウッド・アイテム ②FSC認証シルバービーチ材のチェア
話し手:中野 秀治さん(ジャパンモールディング代表取締役)

フェアウッド・メニュー 焼き栗デニッシュ、焼き栗
オプショナル・ツアー 「井川建具道具店」見学
 

☆講師プロフィー
藤井 博周さん
(株)八清・工務部。平成12年3月入社。設計管理部に所属し、改修・新築工事の設計及び現場管理を行う。八清の主力事業「中古再生」の現場で、リ・ストック住宅、リ・ストック京町家制震工法、ノスタ&ザッタ、京宿家など様々な改修工事に携わる。平成20年には八清で初となる、旅館業許可書を取得した京町家の宿泊施設を手掛け、翌年には伏見区の歴史的意匠建造物の改修も手掛けた。京町家の改修に携わる中で、町家の特徴ともいえる古き良き趣を生かしながら、現代生活の利便性を加味させる『温故知新』を念頭に、光が射し込み明るく、風が流れ心地良い。そんな空間を造る事を心掛けている。

中野 秀治さん
ジャパンモールディング(有)代表取締役。次の世代のために大切な森林と自然を残していく必要があるとの強い思いから、木材業界でいち早くFSC-CoC認証を取得、国内でのFSC認証の普及に全力で取り組む。FSC認証材やリサイクル木材など環境に配慮し、次世代に残していける本物の木材を提供。家具にも使えるFSC認証材としてニュージーランドのシルバービーチ材や南米のクォーターパイン集成材を提案している。

新年最初の「木のある暮らし講座」は、初めて東京を離れ、京都の民家で開催しました。京都の町並みを特徴づける京町家。老朽化による取り壊しで急速にその姿を消しつつありますが、使える材は再利用して改修(リノベーション)することで、「再生」を図っている企業があります。資源の節約にもなり、伝統的景観の維持にも貢献できる、そんな改修工事を終えたお宅にお邪魔して、お話を伺いました。無垢材家具のお手入れの実演と、オプションで中古の建具屋さんも見学、京都ならではのフェアウッド講座をお楽しみいただきました。 

京町家とは

京町家の起源は平安時代で、庶民の住宅を総称した「民家」のうち、商工業を中心とした都市型の住居を「町家」と呼びます。伝統軸組工法で建てられ、職住一致で道に面していることが多く、一文字瓦や犬矢来などが特徴です。今日近畿地方を中心に見られる形になったのは、江戸時代後期といわれ、古都の町並みに欠かせない存在となりました。

そんな京町家ですが、昭和25年制定の建築基準法により耐火や耐震の面で不適とされ、新築できなくなりました。現在は、京都市内に約4万8,000軒残っていますが、近年は毎年約1,000軒のペースで取り壊されています。

京町家の「再生」

これを憂いた京都市の不動産会社(株)八清では、2004年から老朽化して人が住まなくなった京町家を、2009年から宿泊施設の「京宿家」に再生する事業を展開しています。町家スタイルを残しながら、水周りなどは現代のライフスタイルに沿うよう改修するのです。また、木造住宅の材の約8割は再び使えるため、なるべく再利用して環境負荷も抑えます。この町家のリノベーション事業では同社の主力商品として、2011年1月までに163棟の再生を果たしています。

今回お邪魔したお宅は、改修工事を昨春終えた「ホリデーハウス夏霞」(写真上、以下「夏霞」)。講座ではまず、この家の改修を担当した同社工務部の藤井博周さん(写真下)に、詳しくお話いただきました。
 

「夏霞」改修工事を担当して

 

「夏霞」改修前の木造住宅は、昭和54年築で老朽化が激しく、オーナーさんの希望で内装を京町家風に改修することになりました。一階には、玄関からすぐの「白川の間」とダイニングキッチンの「月桃の間」を造り、トイレと風呂のほか小さな和風庭園を設けました。月桃(ゲットウ)は、熱帯から亜熱帯アジアに自生するショウガ科の植物で、葉には防虫・消臭効果があり、この部屋の壁紙や窓に掛けるプリーツスクリーンに使っています。

2階には二つの寝室を設け、「シダの間」と「青龍の間」として、それぞれをイメージさせる絵柄のふすま紙(写真下)を採用しています。また、京町家スタイルに欠かせないのが建具。雪見障子や書院窓などを中古で購入し、仕上げました。平安神宮に近く、2階から見える「白川」は、夏は水遊びができ冬は渡り鳥もやって来ます。この立地に希望通りの家を持つことができ、オーナーさんにはとても喜ばれているそうです。

藤井さんは、続けて法律について触れ、こんなお話をしてくださいました。「建築基準法や景観法、京都の景観条例などの法律は、新しく建物を建てる場合を主に考えられおり、改修して再生させるような考えはあまり持ち合せていません。ですから、古い建物などを改修・再生させようとするには、新築の建物を建てる以上に色々な障害となってきます。壊して一から建て直すのでは環境負荷が大きいこともあり、古い建物でも手を入れてやり、きちんと改修することで、また生まれ変わることができるのですから、これを促進できる法の整備がされたらと思います。京町家の中古再生は、古都の景観も守れるし、資源の有効利用という意味でも自信を持ってこれからも提供してまいります」。 

焼き栗でコーヒーブレイク

ここで参加者の皆さんには、森林農法のコーヒーと、栗のデニッシュ、焼き栗(写真上)で休憩していただきます。食器はもちろんフェアウッド。マグカップは北海道産エンジュお皿はFSC認証材のニュージーランド産シルバービーチでできています。皆さん、栗本来の甘さと、焦げ目のほろ苦さが利いたバターたっぷりのデニッシュに舌鼓を打っていらっしゃいました。
 

FSC認証材のシルバービーチ

ここで、当講座Vol.1で大変好評だったジャパンモールディング(有)の中野秀治さんにご登場いただきます。中野さんは、「次の世代に大切な自然を残したい」と、木材業界でいち早くFSC-CoC認証を取得、輸入木材は徹底してFSC認証材にこだわり、フェアウッドの調達や利用の普及に取り組まれています。この日コーヒータイムで使ったお皿も、中野さんのプロデュースによるもの。「夏霞」のオーナーさんがニュージーランドにゆかりがあり、シルバービーチのダイニングセットを愛用されているご縁から、再びお話いただくことになりました。

中野さんは最初に、1枚の写真を見せてくださいます。ニュージーランドで、先住民族が森に向って弓矢を構えている様子です。「こんな生活なら、人の暮らしと自然のバランスはとれます。16万年の人類の歴史の大部分はこうでした。今のように化石燃料や自動車、パソコンに頼っているのが異常なのです。18世紀の産業革命以来、人口は急増して森と人間のバランスが一気に崩れていきました。我々は目の前の木を使わないので、海の向こうの森を破壊していてもわからないが、先住民族はいつも見ているので森に異変があればすぐわかる。人と森の物差し、正しい感覚を取り戻すべきで、身の周りの家や建具、家具から森に近づいてほしいのです」。

続いて、小学校の教室の写真を見せてくださいます。「日本の小学校の机は、木のように思われがちですが、合板に木目模様のシートが貼ってあるだけです。子どもたちはおそらく親の顔より長い時間、机を目にしているのに、それが偽物なのです。木は割れたり反ったりするということを知る機会が奪われているのです」。そんな思いから、中野さんは横浜のとある小学校で、木の机を導入するお手伝いをしたことがあります。2~3年すると机は真っ黒に汚れますが、子ども達はその汚れを消しゴムで消したりサンドペーパーで磨いたりしながら使っているそうです。

日本の住宅の平均寿命は約30年ですが、中野さんの友人には築500年の家に住むドイツ人が居ます。「手入れをしながら大事にすれば、無垢の木が一番長く付き合える。日本では汚れや割れ、反りが許されないために、木への接し方を誤っている」とお話くださいました。

無垢の木の手入れ法「ソープフィニッシュ」

続いて、中野さんによる家具の手入れの実演です。スポンジに石けん水を浸して、北海道産ハリギリ(センノキ)の座卓を磨きます。これは「ソープフィニッシュ」という方法で、白っぽい木に向いています。石けんによって汚れが浮きあがり、油分が浸み込むことで新たな汚れを防ぎます。2週間に1回程度手入れをすれば、きれいに長く使えるそうです。

中野さんのご自宅では日曜日の朝、直径1メートルのダイニングテーブルを家族全員で磨くことになっています。「愛着がわき、家族の思い出も刻み込まれるため、いつか私が亡くなっても家族はテーブルを捨てないと思うんです。そうして世代を超えて大事にできたらいいですよね」と中野さん。最後に、「今日家に帰ったら、自宅や身の周りの木製品は長く使ったらどうなるか、材はどこで伐採されたのかなど、考えてみてほしい」と話して講座を締めくくってくださいました。


 

中古建具店を見学

今回は終了後、希望者だけで、中古の建具1,500点が揃う「井川建具道具店」(京都市中京区、写真下)を訪れました。お店と倉庫には、不要になった蔵戸や目板戸、網代戸、ふすまなどが所狭しと立てかけられています。近年は京町家の再生だけでなく、海外からも需要があるとのこと。物珍しそうに見て回る参加者の中には、障子に“一目ぼれ”して購入される方もありました。

大学で認証材について学んだため参加したという京都市の女子学生(20歳)は、「実家が改築されたばかりなので、今日、元の家の8割の材が再利用できると聞いてショックです。古くて薄汚いのは嫌ですが、こんなにきれいで可愛い家が再生できるならいいですね。もっと勉強したいので、来年度、古民家再生の授業を取ろうと思います」と話してくださいました。


☆今日のキーワード 【住宅改修】
全国の総住宅数は平成20年時点で5,759万戸、5年間に370万戸増加しました。その一方、空き家の数は756万戸で、総住宅数に占める割合は13.1%。5年前から97万戸、割合も0.9%増加して過去最高を記録しました。毎年20万戸近くもの住宅から住まい手がいなくなっている計算です。(総務省の住宅・土地統計調査より)

日本の人口は2004年をピークに減少に転じているにもかかわらず、住宅の数だけは増え続けている状況です。古くなった住宅を使い捨てて、郊外の田畑や里山を宅地として開発し、新しい資源を投入しながら新築をし続けていくモデルは、もうそろそろ見直すときではないでしょうか。

ヨーロッパでは、数百年も前からの住宅が大切に受け継がれながら、美しい町並みが形成されています。イギリスでは住宅の平均的な耐用年数は141年、一方で日本の住宅はわずか30年程度といわれています。
歴史的な町並みが残る京都市内では、おおよそ4万7,000の町家が今も残されていますが、毎年そのうちの2%ほどが解体など取り壊しをされ消滅しているそうです。

町家や古民家とまでいかなくても、古くなった住宅は、間取りが細切れで、設備も古くて現代的な生活には使い勝手が悪かったり、防寒や地震対策の面でも不安があるものです。しかし、そうした古い住宅でも、大規模な改修を加えることで住み心地の良い住宅に変えていくことができます。立て替えずに構造をうまく活かしながら、耐震性や防火性を向上し、断熱性能もアップして、間取りや内外装もリフレッシュすれば、新築するよりも資源の節約になります。地域材や森林認証の木材、自然素材を積極的に取り入れて古い住まいを甦らせれば、この上ない快適でエコな住宅ですね。

【協力】 ホリデーハウス 夏霞
オーナーのセカンドハウスとして2010年3月に改築を終えた個人住宅ですが、京都の中心部に位置し、観光にも便利な立地にあることから、オーナー不在の時にはホリデーハウスとして営業。京都の伝統的な町家のスタイルを取り入れ、中古の建具や家具を取り入れながら、耐震性や設備面、内外装をリノベーションで向上。現代的な生活にジャストフィットする快適な住宅です。


【主催】 フェアウッド・パートナーズ
URL:www.fairwood.jp
Eメール:info@fairwood.jp
TEL:03-6907-7217(FoE Japan 中澤・中畝)/03-3813-9735(地球・人間環境フォーラム 坂本)


※本講座は環境再生保全機構・地球環境基金の助成を受けて実施しています。

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