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フェアウッド・メールマガジン第42号 2010年12月9日発行

違法木材の輸入・販売規制が欧米で加速化
~米国改訂レーシー法~

ディープグリーンコンサルティング代表 籾井まり

世界の森林、とくに天然林が危機的状況にあるとして、2000年以降輸入国側で違法木材を規制するための取り組みが進んできた。近年、これらの取り組みは欧米でさらに大きな一歩を踏み出し、政府調達のみならず民間企業にも規制が適用されることになった。日本では民間企業を対象とした規制はまだ存在していない。欧米が輸入規制に踏み出した今、今後どうなるのか注目されるところだ。

米国の新たな規制、改訂レーシー法

米国の木材輸入額は、2006年には米388億ドルを超えていて、世界の木材輸入量の約16%を占めている。2007年の環境保護団体の調査によれば、年間総輸入量の10%が違法リスクの高い木材製品であるとされている。米国は2006年から二国間協定などで違法材の排除を行おうとしていたが、規制が大きな一歩を踏み出したのは2008年だ。この年、1900年に制定された、絶滅危惧種の取引を規制するレーシー法が改訂され、輸入や国内取引の規制対象に植物種が加えられたのである。もちろん、取り締まりのレベルには差があるものの、木材の最終製品までが規制の対象となっている、非常に厳しい規制である。


成立の背景:森林保護か、国内産業保護か?

この改訂レーシー法の成立の背景には、米国の木材製品生産量の80%を占めると言われる米国林業製紙協会(American Forest and Paper Association: AF&PA)を始めとする業界団体や企業などの強力なロビイングがあったことが知られている。(ただし、木材製品を取り扱う中小企業の中には、合法性を確認するための負担が増えるとして当初反対したところも多かった。)AF&PAは、違法木材が世界の木材価格を7~16%下げていると法案を審議した委員会において訴えている。さらに、違法木材が世界市場から消えた場合、米国の木材製品輸出総額は年間4億6000万ドル増加するとしている。

よって、レーシー法は見方によっては国内産業の保護のためともいえるが、同時に多くの環境保護団体も、レーシー法の改訂による違法木材の規制の必要性を委員会で証言しており、規制導入に向け激しいロビイングを行っている。したがって、今後は途上国の持続可能材を支援する必要との調整が注目されるものの、改訂レーシー法は業界と環境保護団体の目指すところが一致した規制であるとも言える。そもそも、希少木材を扱う業界はその存続自体が資源の保全にかかっていることも忘れてはならないだろう。


改訂レーシー法の内容

改訂レーシー法は、国内外の法律に違反して取得した植物及び植物製品を国際的にまたは州間で取引する場合の輸出入、輸送、販売、受け取り、取得、購入を違法行為としている(例外規定あり)。つまり、貿易と国内取引のすべてを対象としており、製品に関しても丸太や製材から合板や紙など最終製品までを対象とする、非常に広範囲に適用される規制である。(輸出側に対しては共謀罪法など別の法律が適用される。)

レーシー法では、以下を違法な木材製品としている。
1)盗まれたもの
2)公園や保護地区など、公的に保護された地区から採取した場合
3)上記以外で、当該国の法規制で公的に指定された地区から採取した場合
4)必要な認可を受けずに、またはそれに違反して採取した場合
5)採取、運搬、商業取引に関連して発生するロイヤリティー、税、各種の料金を支払わない場合
6)輸出または積替えに関する法律に違反した場合


改訂レーシー法の特徴

改訂レーシー法の最大の特徴としては、少なくとも以下の2点が挙げられる。まず一つ目は、外国の法律をベースとして、米国における貿易や国内取引が規制されるという点である。この場合、加工国を通した場合にも原産国まで遡って規制が適用される。

もう一点は、当事者が違法材と知りつつ取引した場合はもちろん、「注意していれば知っているべきであった」場合、つまり過失に対しても、罰則が適用される点である。これによって企業は自らの取り扱う木材製品のリスクレベルを特定し、リスクの高い場合は合法性を確認するというデューデリジェンスの記録を残すことが必要となった。

改訂レーシー法実施により、輸入者は、輸入申告の際に製品に含まれる樹種名、原産国、数量と大きさ、金額などの情報を申告する義務を負う。これは2008年12月からは輸入者が自主的に実施、2009年4月からは義務として実施されている。

ただし、複数種が組み合わさっている製品や再生紙などについては、手続きが煩雑になりすぎるのを避けるため、含まれると推測される樹種や原産国のリストを提出するなどして申告を簡略化する。また、対象製品は段階を追って広げていくことになっている。しかし過失も罰則の対象となることから、合法性が確実に担保できる木材以外は、徐々に市場から排除される傾向になることが予想される。


欧米に追随する動き

改訂レーシー法が米国内で木材製品を販売する企業のサプライチェーン管理を加速化させていることは当然の動きだが、同時に違法材の取引全体に与える影響も大きい。とくに「世界の工場」であり、世界一の木材輸出国となった中国の最大の輸出先は米国であり、広葉樹の合板材が大量に輸出されている。市場に国産材の少ない中国には、ロシアやインドネシアなど世界中から高リスク材が大量に流れ込んでおり、最大の輸出先米国の改訂レーシー法が中国の木材市場に与える影響は大きいと期待される。

さらに2010年7月、欧州議会で違法木材のEUへの輸入を規制する法案が、圧倒的な支持を得て可決された。新たな規制は、後述のレーシー法と同じく国内外の法律に違反して取得された木材製品を原材料から最終製品まで規制するもので、欧州理事会はすでに支持を表明していることから、2010年9月に正式に採択されることになっている。さらに、オーストラリアも同様の法案を検討中である。

欧米に続く輸入大国として中国と日本に期待が集まっており、これは国際社会全体で取り組む必要性からも、とくに先進国である日本での規制の導入には期待が大きい。違法伐採問題や非持続可能な森林管理は、根本的にガバナンスや汚職、貧困の問題が根底にあることから、EUのような途上国支援型の輸入規制が望ましい。同時に、より持続可能な木材が優先的に購入されるような仕組みを作る必要があるだろう。よって違法材の排除とともに、持続可能材の優先購入が民間企業に広まるようにすることも検討課題だ。この際企業にだけ負担がいかないよう、消費者が合法材・持続可能材を選ぶことで企業を支援するために、木材製品の原産国の表示と、企業の購入履歴の開示なども検討が必要になると考えられる。今後の動きに注目したい。


改訂レーシー法の適用

違反者には、物品の没収、罰金、懲役刑などが課される。個人に対しては米25万ドル、企業に対しては米50万ドルの罰金、及び/または5年以下の懲役が課される。過失の場合、個人が米10万ドル、企業が米20万ドル以下の罰金、及び/または1年以下の懲役となっている。

改訂レーシー法のもと処罰の対象となった企業はまだないが、2009年11月、世界的に有名な米国のギターメーカーが、捜査を受けた。押収された物品の中にマダガスカル産のエボニー(黒檀)を使用した製品が含まれていた。マダガスカルでは長年、多くの環境保護団体が森林の生物多様性保全プロジェクトを実施してきたが、2009年のクーデター以後、森林の農地などへの転換や違法伐採が後を絶たず、違法材が組織的に中国に向け輸出されている。同年、10万本のローズウッドとエボニーが伐採され、その3分の1が国立公園からのものであったという。輸出された木材の総価格は推定2億2000万ドルとされている。

この企業は持続可能材に積極的であったことで知られており、今回の捜査は、高リスク材を扱う多くの企業にますますサプライチェーンの確認を急がせることとなった。



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