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フェアウッド・メールマガジン第40号 2010年10月6日発行

パプアニューギニアの林業をめぐる問題

国際環境NGO FoE Japan 庄野眞一郎

パプアニューギニアはオーストラリアの北165km、赤道の直ぐ南に位置する世界で二番目に大きいニューギニア島の東半分と周辺の600以上の島々からなる国です。標高3000m~4500mの山岳地帯がニューギニア島の中央を東西に走り、北西部のセピック河流域と南部のフライ河流域には湿地帯が広がり地形、気候ともに変化に富んだものとなっています。

マダン州周辺の森林とパイプライン
国土総面積は約46万平方キロメートル(日本の面積の約1.2倍)で国際熱帯木材機関(ITTO)の2005年の記述によれば、その内67.6%にあたる30.6万平方キロメートルが森林に覆われていて、その80%が熱帯雨林で、11%が亜高山帯林、残りが湿地林や疎林となっています。東南アジアとは近接していますが、その生物相はオーストラリアに近く、動物では哺乳類はコウモリの仲間に加え、有袋類が分布していますし、植物ではフタバガキ科の樹木が少なく、200種以上と言われる非常に多くの樹種が入り混じった森林となっています。

パプアニューギニアの林業の規模を見ると、木材の輸出は年間200万から300万立米で、その約9割が丸太として輸出されています。またこの国の林業はマレーシア華僑系の伐採業者の寡占下にあり、上位5社で丸太輸出の80%を占め、さらにその一つであるリンブナン・ヒジャウ社グループが45%を占める状態にあります。こうした伐採企業は政府から35年から40年間の伐採認可を受けて操業しています。

この認可発給の制度に関し他の国と大きく異なるのは、パプアニューギニアでは、土地については、そこに住む氏族の慣習的所有権が憲法により保証されていて、一部の国有地などを除く国土の97%が氏族による所有となっていることです。このために森林の開発にあたっても、まず政府が土地を所有する氏族から50年間に亘る森林経営権の譲渡を受けた上で、開発企業を入札で選定し、伐採認可を与えるという制度になっています。土地所有氏族に対しては生産された木材の量に応じて利権料が支払われ、また地域住民のための道路や橋、あるいは学校や診療所といった生活基盤を整備する義務が開発企業に課されます。

このように法制度としては先住民族の権利が保護されていますが、実際には問題もあります。政府による森林経営権取得の際に、ほとんどの場合土地所有氏族に対する契約内容の説明も十分されておらず、50年間もの長期に亘る経営権譲渡の契約が「事前の、十分な説明を受けた上での、自由意思による同意」に基づく契約とはなっていません。また、利権料支払いも永続的ではなく、生活基盤整備なども開発企業が約束を履行しない事例も多く、実状は土地を所有する氏族の権利が十分に保護されているとは言えません。

パプアニューギニアでは国内法に基づく伐採認可なしに伐採するという形での「違法伐採」は問題とされていません。問題は、伐採認可を受けた事業においても、政府の定める施業規準に反する乱暴な施業により森林の減少や劣化が広範に進行していることです。伐採方法は一定以上の大きさに達した立木だけを選んで伐採する択伐という方法によるものとされ、植生が脆弱な場所や、伐採区域の面積の1割は環境保全上伐採対象から除外することなどが定められていますが、現場でこれらが守られていないことと共に、こうした規準を遵守させるための政府による監視・指導システムが予算と人員・装備の不足によりほとんど機能していないことも深刻な問題となっています。森林局の監視要員は130名しかおらず、一人当たり平均で8万5千ヘクタールもの森林の監視にあたらねばならず、またそうした監視要員に十分な自動車も付与出来ていない状況から伐採企業に監視のための移動手段も依存するというような有様で行政執行能力が決定的に欠落していると言わざるを得ません。

最新のパプアニューギニア大学などによる衛星画像解析による研究によって1972年から2002年までの30年間の間に全森林面積の約15%にあたる5万平方キロメートルの森林が失われ、約9%、2万9千平方キロメートルの森林が劣化したことが明らかになっています。消失と劣化を合わせた面積は約7万9千平方キロメートルで全森林面積の約24%、日本の九州の面積の約2倍に相当します。こうした森林消失・劣化をもたらす最大の要因は林業で次いで人口増加に伴う森林の農地への転換となっています。

こうした持続的でない収奪的林業からの製品を市場から排除していく有力な武器が森林認証ですが、この国では未だに大規模伐採事業区で認証を取得したところはありません。認証の普及には消費国側からの認証の要求が不可欠ですが、1990年代までは日本が6割超を占める最大の輸入国だったものの、現在は中国が2004年で全輸出量の64%にあたる129万立米を輸入する最大の輸入国となっていて、認証の普及も中国市場の意向次第という状況になっています。

さらにこうした問題に加えてこの国の政治の基本的姿勢を疑問視せざるをえないような事例が今年になって出て来ました。2010年の5月末に環境法の改正が議会で議決されたのですが、この改正が土地所有者などの基本的権利を奪うものだとして市民団体、NGOなどから非難されています。この改正は新しく69A条と69B条を追加しているのですが、69A条では環境省のディレクター(日本の事務次官)に対し、新しい行為や工事ついて過去に同様の事業に関連して認可されている場合は、環境法のその他の規定・手続によることなく専決で認可する権限を与えています。しかもこの認可は最終決定とされ法廷で異議申し立てすることは出来ない、としています。69B条は69A条による認可を受けたものはその行為、あるいは工事を行うことが出来、かつその行為は法廷での訴訟の対象とならないとしています。

この改正は北部のマダンの後背山地での中国企業によるニッケル鉱山開発事業が、廃棄物の海中投棄計画をめぐり周辺の土地所有者が訴訟を起こしたことで暗礁に乗り上げたことが契機となって行われたと報じられています。行政に超法規的専決権を与え、かつ司法による異議申し立ての機会を否定するということは国民の権利を侵害するものと考えられます。現に現地では土地所有者が最高裁に対してこの改正は憲法違反であるとの訴えをおこしています。

1975年の独立以来パプアニューギニアでは小政党が乱立し連立政権が短期間で入れ替わることを繰り返して来ましたが、2002年に独立時の初代首相っであったソマレ氏が3度目の政権について以来、2007年の総選挙をはさんで異例の長期政権を維持しています。こうした長期政権化により強権的な傾向が出てきているのではと憂慮されます。

基本的には民主主義が根付き、市民団体やNGOも活発に活動し、裁判所もその役割を果たしている国ですが、政治における不正・腐敗も広く語られる状況で、海外からも見守っていくことが重要なことと思われます。

※本調査は、ITTO助成事業の一環として実施しました。


<関連URL>
パプアニューギニア林業協会 2010年環境法改定
http://www.fiapng.com/PDF_files/Environment%20Act%20&%20Regs%202010.pdf

パプアニューギニア林業協会
http://www.fiapng.com/fia_library_acts.html

環境関係情報サイトMONGABAY.COM
http://news.mongabay.com/2010/0630-hance_png_amendment.html


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