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フェアウッド・メールマガジン第40号 2010年10月6日発行

全量買取制度とバイオマスの持続可能な利用

NPO法人バイオマスン産業社会ネットワーク 泊みゆき

温暖化ガス25%減の目標を掲げる民主党政権の政策の一環で、現在、再生可能エネルギー電力全量買取制度の導入が検討されている。同制度は、電気事業者(電力会社)が一定の価格、期間、条件で再生可能エネルギー由来の電気を買い取ることを義務付ける制度である。

2010年8月に発表された資料(注1)によると、すでに実施されている太陽光発電の電力買取制度を風力、中小水力、地熱、バイオマスにも広げる。買取の範囲は、新設設備を基本に価格は1kWhあたり一律15円から20円の範囲で、買取期間は15年から20年(太陽光は10年)。現在、約1兆円程度の再生可能エネルギー関連市場を2020年には10兆円に、2020年の再生可能エネルギーの割合を10%とすることを目指すとしている。

バイオマス発電施設(銘建工業)
これまでは、2003年に施行された電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)にもとづき、一定割合の電力を再生可能エネルギーとすることが電気事業者に義務付けられてきた。従来、大手電力会社は水力以外の再生可能エネルギー利用の取り組みはほとんどしてこなかったため、わずかな割合(2003年0.39%、2010年1.35%程度)であっても、電力会社は対応に迫られた。再生可能エネルギーの中で最も安価で使いやすいのがバイオマスであり、割合は減少しつつあるがRPS法の義務量の半分近くはバイオマス電力で賄われてきた。

清掃工場のバイオマス(生ごみなど)分やバイオマス専焼施設からの買取の他、石炭火力に数%の木くずや間伐材を混焼させている。しかし、廃棄物系バイオマスの供給量には限界があり、かつ2008年をピークとする石油価格上昇によって、製紙会社やセメント会社がバイオマスボイラーを相次いで導入したことから、安価なバイオマスを大量に調達することは難しくなってきている。

日本の国土の66%が森林で、その4割が人工林だが、さまざまな理由で国産材の利用は進んでいない(注2)。京都議定書に基づく温暖化対策として大面積の間伐が行われているが、そのまま林地に置かれているいわゆる「切り捨て間伐」が年間2000万m3にも上っている。今回の全量買取制度でも、この林地残材の利用が考えられているが、木材を山から降ろすための路網(道)の整備や製材加工の近代化など林産業そのものの再生と同時並行で行っていく必要があり、時間がかかる。

そのため、一部の電力会社は手っ取り早いバイオマスの調達方法として、バイオマスの輸入を始めている。関西電力がカナダから木質ペレットを、東京電力がマレーシアからオイルパームのヤシ殻などを輸入し、石炭火力に混焼している。

特に中部電力はオーストラリアからのチップを検討していると報道され、波紋を呼んだ。これまでも製紙原料などでオーストラリアから輸入されているチップの一部は、オールドグロスと呼ばれる非常に貴重な生態系の天然林を伐採して調達されており、バイオマス発電でこうした原料が使われる懸念が顕在化したのである(中部電力は後に、植林チップの利用などを検討すると発表)。

エネルギー需要量は、資源利用に比べて規模(スケール)が大きい。日本の現在の木材需要を仮にすべてバイオマス発電に回したとしても、日本の電力需要の1割にもならない。

全量買取制度の設計次第では、輸入バイオマスの利用が商業的に成立することが可能であり、そうなれば当然の経済活動として、電力用の木材などバイオマスの輸入が増大するだろう。

発電燃料となる木くず
再生可能エネルギー電力の割合を急速に高めようとする場合、バイオマス輸入は有力な手段だが、現在の木材輸入量の大きな部分に相当する量が短期間で増えるおそれさえある。よく知られているように、日本が現在輸入している木材の2割以上は違法伐採など持続可能性に問題のある木材である。中国などの木材需要の増加で今でも世界の持続可能な森林管理は脅威にさらされているが、この新たなバイオマス需要がどのようなインパクトを与えるか懸念される。

輸入バイオマス利用だけを禁止することは、WTOに抵触するおそれが高いが、輸入であれ国産であれ、持続可能性基準もしくは少なくとも違法伐採木材を排除する仕組みの導入が必要ではないだろうか。

当バイオマス産業社会ネットワークではこうした考えにもとづき、リサーチや啓発活動などを行っているところである。


<脚注>
注1)再生可能エネルギーの全量買取制度の大枠について
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004629/framework.html

注2)国産材利用が停滞してきた背景については、「バイオマス白書2010」等を参照のこと
http://www.npobin.net/hakusho/2010/


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