フェアウッドマガジン
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第12号
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フェアウッドマガジン 第12号 INDEX April 2005
1. フェアウッド推進フォーラム講演録 〜危機に瀕するインドネシアの森林と違法伐採
昨前回に引き続き、昨年12月11日に行われたフェアウッド推進フォーラム「世界の森林問題と消費国の取り組み」からの講演録をご紹介します。
今回はインド ネシアNGO、フォレストウォッチ・インドネシアのトグ・マヌルング氏です。インドネシアの森林に深刻な影響を与える違法伐採についてお話いただきました。
(フォレストウォッチ・インドネシア トグ・マヌルング氏)
2. 違法伐採対策とWTOルールの壁:政府、企業、消費者の連携で「疑わしき木材」を監視せよ(後編)
前回は、違法伐採対策として木材の輸入制限が抵触する可能性のあるWTOルールの条項などについての議論でした。今回は、そのWTOルールとの整合性を巧みに取っているEU、英国などの取り組みや、日本国内における取り組み事例などについてご紹介いただきます。
(国際林業研究センター(CIFOR)客員研究員/
日本貿易振興機構アジア経済研究所海外研究員 加藤 学 氏)
3. 建築家の本音トーク 木材の未来は共立共存と供給バランスが鍵
私たち一般消費者が環境に配慮した家造り、例えば認証材や国産材を使用することを考えても、金銭面などによりなかなかそれを実現することは容易ではありません。どうしてなのでしょうか。 そんな疑問へのヒントを家造りの専門家の方々に、私たちがあまり知らない木材の話も含めてご執筆いただきます。
第一回目は、木造戸建住宅を中心に設計をされている上山恵三建築設計事務所主宰の上山恵三さんです。(上山恵三建築設計事務所主宰 上山 恵三 氏)
4. 「今、我々が出来ることは何か?」〜智頭杉印鑑の商品化で国産材の利用促進と外材の輸入削減を〜(前編)
一般的に印章の原料となる素材は、木材、象牙、水牛、および翡翠(ヒスイ)など天然素材に加え、アクリル樹脂など工業材料が用いられます。 木材については拓、アカネ、そして黒檀など硬質で加工性に優れた材がよく使われるのですが、その常識を覆し国産杉で印鑑を商品化した画期的な取り組みについて(株)永江印祥堂の営業企画室福間敏之さんにご紹介いただきます。
((株)永江印祥堂 営業企画室 福間 敏之 氏)
訂正とお詫び
前回配信した第11号の翻訳記事「タスマニアの原生林伐採の現状」(フィル・プリンジャー氏)につきまして記述に誤りがありました。下記のとおり訂正の上、お詫び申し上げます。
今回の記事は「フェアウッド推進フォーラム」(2004年12月11日開催)での講演をフェアウッド・キャンペーン事務局でまとめたもので、翻訳の過程で誤りが生じたのものです。

【訂正1】 最初の中見出し「世界遺産登録地の陰で森林伐採が」の最後の段落
<訂正前>
タスマニアはオーストラリアの東南部に位置する ・・・ 中略 ・・・
広大な原生林はそこからはずされており違法伐採が行われているのです。
<訂正後>
広大な原生林はそこからはずされており商業伐採が行われているのです。

【訂正2】 二つ目の中見出し「森林管理の簡素化のために毒薬を」の最後の段落
<訂正前>
オーストラリアでは100人の科学者たちが集まって、このような伐採をやめるよう緊急に呼びかけました。 タスマニアには地域森林協定(RFA)が制定されており、これが守られてさえいれば保護価値の高い森林地域はある程度保護されていたのに、 協定は破られ保護は失敗に終わっているとして、すべての保護価値の高い森林を含めた保護地確立が緊急に必要であるということを政治家に訴えました。
<訂正後>
オーストラリアでは100人の科学者たちが集まって、このような伐採をやめるように緊急に呼びかけました。タスマニアでは地域森林協定(RFA)が制定されていますが、現状(現在のRFAの基準)で、タスマニアの貴重な、生物多様性の価値の高い生態系を保護することができていないと指摘しています。 提言された科学的基準が実際にRFAに完全に適用されれば、タスマニアのすべての原生林や保護価値の高い森林は国立公園などの保護地で保護されているはずだと、彼らは指摘しており、RFAの失敗によって、タスマニアの景観、森林、生物多様性の深刻な悪化が起きているというのです。 すべての政府や政治家に対して、タスマニアの原生林、保護価値の高い森林を保護するために必要な行動を早急にとることを呼びかけています。
1.フェアウッド推進フォーラム講演録 〜危機に瀕するインドネシアの森林と違法伐採
フォレストウォッチ・インドネシア トグ・マヌルング氏
最も急速に森林の減少している国 − インドネシア
インドネシアにおける森林減少の割合は、1980年代には年間100万ha、1990年代には年間170万〜200万haの速度で森林が消滅し、今では年間約300万haの森林が消滅しています。 他のデータによれば、1950年から2000年までの50年間にインドネシアの森林の4割が伐採されてしまい、インドネシアの森林被覆面積 は1億6200万haから9,800万haまで減少しました。現在インドネシアは世界で最も急速に熱帯雨林が減少している地域です。

FAO(国連食糧農業機関)によると、全世界で年平均1,500万haの森林が消滅しており、そのうち約20%はインドネシアの森林が含まれています。
インドネシアの森林
図1 消滅の危機にあるインドネシアの森林

インドネシアにおける森林破壊は政治的、経済的システムの腐敗が大きな原因です。天然資源、特に森林資源を政治的または個人の利益のために搾取する手段と考えられてきたためです。 したがって広大な熱帯雨林が、産業用パルプの ための植林、アブラヤシのプランテーション、その他の開発のために収奪的に皆伐され、民間企業は膨大な利益をその森林伐採から得ています。

伐採され使えなくなってしまった土地がインドネシア全体で4,000万haもある にもかかわらず、そのような収奪的な皆伐はやみません。放置された土地は雑草が生え、荒れ地となり、森林に戻るには長い時間を要します。

インドネシア政府は今、国内からも海外からも圧力を感じ始めています。政府 はアクションをとらねばならないと感じてはいますが、なかなか結果に反映されません。
違法伐採は野放し状態に近い??
日本を含み、インドネシアに対して国際協力をする様々な国や機関があり、それらグループはインドネシア政府と様々なコミットや覚書き協定を結んでいます。しかし森林関連の約束事の多くは、いまだ紙面上の約束にすぎず、国内地域における具体的な行動には至っておりません。いわば非合法な森林伐採、木材貿易は野放しに近い状態といえます。

違法木材取引は年間5,100万m3を超えると言われています。インドネシアから 海外に密輸される丸太は1,300〜1,500万m3と推定され、主にマレーシア、中国、ベトナム、シンガポール、および日本へ輸出されています。違法伐採はイン ドネシアのあらゆる森林で行われており、保護林も例外でなく、天然林減少の一因となっています。
はかり知れない違法伐採の影響力
違法伐採による経済的損失総額は年間350億米ドルに達しますが、この数字には社会への悪影響は含まれておりません。 すなわち、これ以外にも熱帯雨林の生態系が破壊されることで生じる環境・社会的負担があるということです。環境的・社会的に生ずる経費は地元住民が負担することとなり、また、違法伐採 により生ずる政府の歳入に与える影響も膨大です。

森林破壊により生物多様性が失われ、環境機能も失われ、地域社会は大きな社 会的・経済的問題を抱えています。 インドネシアでは1960年代後半から森林伐採権制度が施行されていますが、これまで実際に法を遵守した持続可能な森林 管理が行われた例はほとんどありません。 いわゆる合法的伐採でも持続不可能なレベルで行われているものが大半を占めます。その結果、劣悪な森林管理と違法伐採活動が森林を破壊し、森林資源が枯渇し、 インドネシア諸島全域の存続を脅かすような環境問題を誘発しています。

小規模農民による焼き畑の影響もありますが、大企業による森林伐採に比べれ ば取るに足りません。違法伐採や違法貿易は1998年スハルト政権崩壊後の「改革時代」以後、さらにひどくなり、インドネシア全土に及ぶ危機的状況をもたらしています。

インドネシアでは合法的な木材供給と国内外の需要との間に、慢性的な構造上 の不均衡があるため、違法伐採が蔓延しています。製材業は過剰な設備を有し、このことにより過去20年間で合板、紙、パルプの生産量は大幅に伸びたものの、 それは法により定められた木材供給量の枠を年間4,500〜5,000万m3も超過しています。過剰生産は約3,000もあると言われる違法製材所によって行われ ている側面もあります。

違法伐採の推定量
図2 違法伐採の推定量(規制量と推定需要量とのバランス)

したがってインドネシアの国内で伐採される木材のうち8割は違法伐採と言わ れています。日本の皆さんが輸入されている木材の多くは違法木材である可能性が高いのです。 この根本的な問題は政治的腐敗にも起因しており、法がきち んと執行されないところに問題があります。消費国の間で安価なインドネシア木材に対する需要が減らないのもまたその要因と言えるでしょう。
もっと世界的に包括的な対策を!
小規模製材所 一部の先進国で政治的な意志が表明され、消費側の責任を取ろうとする動きがありますが、まだまだ不十分です。この問題に関して、輸入国にお願いしたい のは、違法な出所の木材や木材製品を輸入しないという法律の制定です。 多くの輸入国では、違法木材輸入に関する責任意識は希薄のように見受けられます が、輸入国もインドネシアの犯罪行為に加担しているといって過言ではないと思います。
図3 過剰生産を支える小規模製材所

違法伐採はインドネシアの域内で起こっている問題ですから、インドネシア政 府が最大の責任を負うべきですが、消費・輸入国の協力が不可欠です。 日本のような消費・輸入国の人々や政府も、違法伐採や森林破壊に対処するために十 分な役目を果たすことができると考えています。違法伐採と違法貿易の撲滅のために、どうか、ともに戦ってください。
> フォレストウォッチ インドネシア http://fwi.or.id/index.php(インドネシア語)
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2.違法伐採対策とWTOルールの壁:政府、企業、消費者の連携で「疑わしき木材」を監視せよ(後編)
国際林業研究センター(CIFOR)客員研究員/
日本貿易振興機構アジア経済研究所海外研究員 加藤 学 氏
ウルグアイ・ラウンドにおける「政府調達に関する協定」とは?
※前編からの続き

それならば、政府調達で認証材を指定し、違法木材の国内需要を制限することはできるだろうか。政府調達についてはGATTの規定では内国民待遇が適用除外されていた。しかし、1993年のウルグアイ・ラウンドによって「政府調達に関する協定」が締結され、1996年には発効となった。

その協定には、内国民待遇および無差別待遇原則と公平・透明な手続きの徹底が盛り込まれた。また産品の技術仕様については、6条1項で「国際貿易に対する不必要な障害をもたらすことを目的として又はもたらす効果を有するものとして、立案され、制定され又は適用されてはならない」と規定し、 6条2項では技術仕様は産品の「特性よりも性能に注目して、国際規格や国内強制規格、国内任意規格、建設基準に基づいて定める」とした。

そのため、産品の性能ではなく生産方法に基づく森林認証などのラベリングの有無を政府グリーン調達においても基準とすることができない。しかも、「持続可能な森林経営」というコンセプトが、現時点では客観的な基準とは言いにくい状態であり、政府調達においても違法木材を規制することは難しい。
政府調達による取組みを実現したイギリス
しかしイギリスでは2000年より公共事業の請負業者が入札に参加する条件として、政府が要求した場合は納入する木材が合法であることを証明する書類の提 出を義務づけ、政府調達において事実上の違法材需要の制限を行っている。 同時に「持続可能な森林経営による木材」を使用することを業者に推奨してお り、政府調達のうち50%が何らかの認証を受けた木材となっている。

こうした制限措置は、WTOの「政府調達に関する協定」の技術仕様を根拠にす るのではなく、8条で供給者の資格審査について「倒産や虚偽の申告等を理由として排除できる」としているのを根拠に、契約の条件として違法材を使用す る業者を排除するものと説明されている。 欧州ではイギリス以外に、デンマーク、オランダでも同様の制度を導入しており、政府調達において違法材を制限 する一定の効果をあげている。

1997年に国連で開催された森林に関する政府間パネル(IPF)において、森林認証は事業者の任意の取り組みであること、樹種・森林所有者に差別的な取り扱 いがないこと、貿易制限措置のために使用すべきでないことが確認された。 現在のWTOルールの下では、森林認証・ラベリングは個々の企業の自主的な活動 であるべきという国際合意ができつつある。
※IPF:The Intergovernmental Panel on Forests

しかし、輸出国側による合法性証明などの自主的な森林認証基準に基づいて輸 入を制限する協定を2国間で結ぶことについては、第3国がWTOに提訴する可能性は低いので、WTOルールには抵触しないとされる。 EUでは現在そうした自 主的ライセンススキームによる違法材貿易制限を検討しており、今後日本もインドネシアとの間で同様の2国間協定を検討することもできる。 その場合、EU が既に示してある基準とのすり合わせを行い、ダブルスタンダードにならないよう協力して進めていく必要があろう。
必要不可欠な民間企業の取組み
また、民間企業の取り組みも重要である。世界第3の木材輸入国であるイギリ スでは、NGOなど第3者機関による森林認証を受けた木材の流通が10%ほどあ り、違法木材の流通を阻む一定の機能を果たしつつある。しかし日本ではいま だ0.02%と認証材の普及は遅れている。イギリスで認証材が普及した背景には 、政府調達方針で示した違法材の制限に添った形で業界団体も同様の調達方針 を示したことがある。認証材は当然割高になるので生産者側が自ら取得するイ ンセンティブは少ない。消費者が割高であっても認証材を買うといった意識転 換を促すために、一層の情報提供や普及活動に努めるとともに、政府と企業が 連携して認証材の積極的な調達を行っていくことも必要であろう。

違法伐採問題対策について、これまでなかなか具体的なアクションをとってこ なかった日本企業もようやく動き始めている。リコーなど数社は2004年8月、 インドネシア最大のパルプ・紙製造会社、APPからの製品輸入を中止すると表 明した。環境NGOから原材料に違法木材を使っているという指摘を受けての措 置である。市民と企業による自立的な行動の第一歩として歓迎したい。

違法伐採問題は生産国の貧困、汚職、そして産業構造などの問題と複雑に絡み 合うため、根本的な解決には生産国の開発戦略の見直しが不可欠になる。しか し、開発戦略を転換し、新たな制度を作るには時間がかかる。当面は違法伐採 の取り締まり強化と違法材と合法材を仕分ける有効な基準の構築とその徹底に 力を注ぐ必要があろう。

そうした生産国側の努力を後押しするためにも、政府・企業・NGOの一層の連 携強化とともに、消費者が「疑わしい木材製品」の購入を自ら拒否することで 、違法伐採の受益者から責任者に変わることが求められている。
参考文献
・経済産業省 (2004)「WTOルールの概要」『不公正貿易報告書 2004年版』
・中澤健一・小浜崇宏・満田夏花「欧州の持続可能な木材調達戦略−政府・業界・企業・NGOの取り組み」フェアウッド・キャンペーン&JATAN共同調査, 2004.7
・柱本修(2000)「貿易と環境についての国際的議論からみた森林認証・木材ラベリング」, 『林業経済』2000.8
・福田淳 (2003) 「違法伐採問題の―その問題と背景」『林業経済』55(11),2003.2
・福田淳 (2004)「「汎ASEAN木材認証イニシアティブの動向について」『山林』2004.6
・宮川公平 (2002)「GATT/WTOと環境保護に基づく貿易措置−PPM(生産工程方法)に基づく貿易措置のGATT適合性を中心に」『国際開発研究フォーラム』21, 2002.3
・FERN (2004) To Buy or Not Buy: Timber procurement policies in the EU, January 2004
・Shimamoto, M., F. Ubukata, Y. Seki (2004) 'Forest sustainability and the free trade of forest products: cases from Southeast Asia', Ecological Economics 50(2004)23-24.

> GATTの説明(外務省のページ) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/data/gatt/i.html

この記事への読者からのコメント
 
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3.建築家の本音トーク 木材の未来は共立共存と供給バランスが鍵
上山恵三建築設計事務所 主宰 上山 恵三 氏
木造建築の材料はもちろん木材です。「木なんてみんな同じだろう!」と思うなかれ!木材は千差万別。適材適所を考慮して設計されています。 それは、国産材でも外国産材でも同じこと。上手に使い分けることで、安価に環境にも健康にもよい家ができますよ。そんな国産材と外国産材との使い分けの話を私の設計した木造住宅を例にとってご紹介します。
国産材と外材、ここにこう使います
これからご紹介する建築例は岩手県大迫のケースです。図4はその概観です。

住宅の柱材としてよく使われるものに杉、桧、米栂(ツガ)があります。杉、桧は心去り材(注1)のとれる大径木は造作材として使用されることが多く、柱材では心持ち材(注2)の小径木が使われます。 心持ち材は心去り材より価格的には安いのですが、乾燥が不十分だと樹心から外に向かって放射状に割れが生じやすく、外側表面に達したひび割れが見られることがあります。 このひび割れは背割りという切り込みを入れることで防ぐことができ、背割りは施工時、壁に隠れるようにして美観に配慮します。
大迫の家
図4 大迫の家(概観) − 軒裏にも杉板を使用している

注1 心去り材:樹心を持たないもの。木目がきれいなので造作材にも使われる。心持ち材より高価
注2 心持ち材:樹心を持つもの。ひび割れしやすいが構造的には強い。

私はできるだけ国産の心持ち材の杉を使うようにしているのですが、このひび割れが、時々施主から「割れた木を使っている」といった誤解を招くこともあります。割れといった木材のなかなか避けられない性質から生じる不満は、乾燥状態を改善することで解消可能です。 しかし対応にコストのかかる人工乾燥と時間のかかる天然乾燥、どちらも悩ましく、乾燥は木材製造業者が抱えている大きな問題です。

次に土台(注3)ですが、白アリや腐朽菌に強い桧葉か栗材を使いたいと考えていました。しかし栗材はなかなか手に入らず、岩手県の地元では生産、加工していないとのこと。桧葉も青森県に有名な青森ヒバ(注4)があるのですが値段が割高で手に入りにくいイメージを払拭できず、結局、防腐剤注入の米栂で妥協しました。

注3 家の基礎の上に置く部材
注4 正式な樹種名はヒノキアスナロ

大引き、根太は杉、胴差し、梁、そして桁は杉を使用(注5)。スパンの長いと ころには、曲げ強さの大きい輸入材の米松(780kg/cm3、国産杉の場合は660kg/cm3)を時々使うことにしていますが、 この家では全体に杉肌の色調を生かして杉を構造化粧材として表現しました。小屋組はほとんど杉、垂木も杉。野地板は断熱、水平剛性による補強も兼ねて厚手の杉板が良いとは思っていたのですが、値段の関係で結局ラワン合板に妥協してしまいました(注6)

注5
 大引き:根太を支える部分
 根太:大引きの上にのった、床座を支える部分
 胴差し:軸組を構成する部材で1階と2階の境の床にある横材
 梁:柱で支えられている横材
 桁:垂木を受ける横材

注6
 垂木:棟木・母屋・桁の上に渡して屋根の下地を支える部分
 野地板:屋根の下地に使用される板のこと
上棟時の軸組み 1、2階の荒床(注7)にはラワン合板、床フローリング材には杉の無垢材を使用 しました。一般に未乾燥材は含水率(注8)の問題もあって、反り、ねじれ、そして狂いが生じ易いのですが、 この無垢材は地元産の杉で少々乾燥が甘く、床に敷き始めた頃から材と材の間に隙間が出始め、竣工の頃には大きいところで5mm位空いて埋め木を施すこととなってしまいました。施主は「杉の膚触りは いいんだけど、縮むんだね」と言われて、私はすぐさま「木は生きているんですよ」と釈明しました。冷や汗ものでした。
図5 上棟時の軸組。紙が巻いてあるのは和室化粧材の養生

注7 荒床:床組で根太の上に敷く床仕上げの下地材のこと
注8 含水率:水分が木材中に含まれる割合。一般に乾燥材は30%以下程度

壁、天井ですが、秋田杉の小幅板を使いました。これは材が十分に乾燥したものを使用しましたが、収縮による隙間もなく施主はご満悦でした。

最後に和室の建具枠材についてですが、加工性がよく柾目調の北米産スプルース材を使用、一般建具枠材、階段床板、そしてカウンターには収縮、変形の少ない北欧産ホワイトバーチ(白樺)の集成材を使用しました。

このように構造材、軸組材、そして内装材には国産材を、二次的な階段や枠などには外材を、といった大まかな使い分けをしているのが実状です。
天然素材を使った家づくりはどこまで可能でしょうか?
自然環境や、健康・シックハウス対策など様々な影響を考慮して自然な無垢の素材や地産地消で家を建てたいと希望する方が増えています。 その要望には国産材が相応しく、積極的に使いたいと思う一方で、価格や品質面から思い切って踏み込めないという現実もあります。輸入材に比べてどうしても高いという割高感、そして特に無垢材に見られるキズ、反り、割れの品質の不安定感、これらはなかなか払拭されません。 こうした短所も踏まえた上で、要は国産材の長所をより多く施主に理解していただきながら設計を進めていくことが私たち建築家の責任であると考えています。 内観
図6 内観−吹抜の食堂を2階廊下より観る。床、壁は杉板張

それでも、単に天然素材でつくればいいという安易な発想では今の社会の速い展開についていけないことも確かです。地産地消という観点から、これからも天然素材の活用の機会はさらに増えてくることはまちがいないのですが、 国産材で賄えないところを輸入材で補いながら、地元の人達とともにこの両者のバランスを図り、地域の文化としての家づくりを推進していかなければならないと考えています。このバランスが崩れているから世界有数の木材輸入国になっているのではないでしょうか。

そのバランスの是正も含めて低コストの仕入れルートを開拓することが重要です。国産材は高くて手に入りにくい材料というイメージが定着して、安易に外材に走ってしまうことだけは避けたいと思いますが、現実的に施主の予算が厳しかったり、工務店が対応できなかったりでは、せっかくの環境意識も宝の持ち腐れです。

資源の有効利用を実行する責任はいつも私たち建築家にもあるのだという強い自覚を持って、構造材として優れた国産の青森ヒバ、秋田杉、岩手松、天竜杉、吉野杉、木曽桧など、地域とその固有性をアピールし採用していくことが重要です。

国産か外材かをコストで選定しなければならないという状況を除けば、乾燥の問題と加工に要する手間代さえクリアすれば国産材は外材に代替でき、供給の範囲は大いに拡大するはずです。 木理通直、香気、加工容易性等の国産材のメリットを生かして多用な用途展開が可能だと考えます。

国産材と外材とのバランスを取りながら、いかに木材の良さ −森林というCO2の吸収源、生態系への負荷軽減等、健康、環境への影響の少なさ− を広く伝え木材の利用促進に寄与することが、環境問題が深刻化して留まることのない現実において、私たち建築家が環境保全に協力できるアクションであると考えています。
> 木材の部位の名称についてはこちらを参照ください
http://www.tonozuka.com/dentoh/kozoh.html
http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_house/all.htm
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4.「今、我々が出来ることは何か?」 〜智頭杉印鑑の商品化で国産材の利用促進と外材の輸入削減を〜(前編)
(株)永江印祥堂 営業企画室 福間 敏之 氏
圧密加工印章 現在、木製印鑑は、緻密な木質で加工性に優れている柘をはじめ、黒檀やアカネなど十数種類にも及ぶ。しかし「その印材は、いったい何処から入荷しているのか?」と考えた印章業者がどれほどいるのか? 本稿は「喉もと過ぎれば」的感覚を改め、ユーザーに対して申し訳ない気持ちと、トレーサビリティ確立の意欲を高めていくことの必要性に気付いたことで実現した国産杉印鑑についての弊社の取り組みを紹介していく。
図7 圧密加工された風合いのよい智頭杉印鑑
印章業界の現状
印章業界はエコへの関心が薄く、またトレーサビリティの重要性に全くと言って良いほど関心がない。十数種類にも及ぶその天然木材のほとんどが、高温多湿な熱帯・亜熱帯地域からの輸入材が主と聞いているが、正式な産出国はメーカーでも不明なのが現状で「売れれば良い」という考えの業者が非常に多い。

印章業界では、昨年9月より一部の印鑑の名称変更が行われた。その対象に木製印鑑の代表ともいえるシャム柘も含まれ、名称がアカネとなった。 これまで業界では、柘はシャム柘のことを指し、他に本柘があるため、柘と本柘で品種分けしていた。ところが、シャム柘は本来ツゲと異なる素材であることが判明し名称変更に至ったという酷い理由なのだ(注1)。 更に、オランダ水牛の名称は牛角(うしのつの)に変更される。学術上は陸牛であり、オランダも原産地の誤認を与えるためだ。

注1 シャムツゲは学術上、ツゲではなくアカネ科に属する。シャムも原産地であると誤認されやすいため名称から除いた

これらの名称変更は、消費税の内税表示が決定し、消費者の誤認防止対策が活発化したことによる便乗対策と思われる。 実際の素材名と違う印材名を変更し誤認を防止するということだ。印章及び、印判組合は、一体いつから上記のことについての認識があったのだろうか?

近年、発覚した事実については「明確なトレーサビリティが事前に確立できていれば・・・」と悔やまれる。名称から素材が判断しやすいがゆえに、 誤解を招くおそれのある名称を、長期に渡り何の改善もなく、見て見ぬフリをしていたのなら、余りにも無責任といえるのではなかろうか? いずれにしても、トレーサビリティさえしっかりしていれば、このような事態も未然に防げたであろうし、もっと迅速な対応、処置ができたはずだ。

今、印章業界に一番大切なのは「同じ過ちを二度と繰り返さぬこと」である。特に、印に名を刻すというユーザーの思い入れの強い世界であるからこそ、 信用が第一であり、不安感や不信感を与えることのないよう未来を見据えた対応策が必要不可欠である。
国産材の利用促進に基づく外材の輸入削減がテーマ
弊社は、親会社である三菱鉛筆の印章グループと共に、日々国産材の利用促進及び、エコロジーに対して積極的に取り組んでいる。
平成15年11月22日に東京大学にて行われたエコフォーラムにて「近年加速する 環境破壊の影響は、輸入の天然材を主とする印章業界でも大きく、代替材料の開発が急務であると共に、国内では杉を中心とする国産材の利用促進が求めら れている」ということを再認識した。
これを機に「国産材の利用促進に基づく外材の輸入削減」をテーマに、トレー サビリティが明確である国産天然材を100%活かしたエコロジーな印鑑の開発に踏み切った。
材料へのこだわり
まず我々が考えたのは材料だった。そして、国産材の中でも特に利用促進が求められている杉に着目した。
国内の杉は、蓄積量に対して需要が極めて少なく、年々その花粉症問題なども深刻化しており、国産杉の利用促進は急務とされている。一方、国産杉の利用促進に努めている木工品加工会社には、木工品製造時に発生する端材板が敷地内に大量にストックされており、需要ルートを探している現状である。

そこで、上記の現状を考慮した材料を、我々は2つの切り口から考えた。1つは、杉をはじめとする地産地消の各県産木材を材料とし、その利用促進を目的とした「県産材の利用促進印鑑」を作成し、 各県の官庁関係へ公印としての斡旋を目的にアプローチする。各県が、積極的にこの商品を利用することで地産地消木材の利用促進が活性化され、全国的に国産材利用促進を広めることとなり、ひいては外材の輸入削減の1つに繋がると考えた。

もう1つは、木工品の製造時に発生する端材板を再利用し、エコに対する意識向上を目的とした「木工品端材の再利用印鑑」を作成し、エコに対して関心の強い上場企業をはじめ、民間企業へエコ印鑑として販売し、そのシェアを広げることである。 市場にこの商品が浸透することで、人々の再利用及び、エコロジ−に対する意識が高まり、常識化させることに繋がると考えた。

端材の再利用に関しては、トレーサビリティを確立するため、材料となる国産杉の端材を安定供給できる木工品加工業者を選定し、納品時に端材であることを記した出荷証明書を提出してもらう契約を結んだ。これにより、トレーサビリティが明確化されたと共に、その証明も信用有るものとなった。

次回は品質へのこだわりをある技術との出会いにより実現した話に触れたい。
> 印鑑用木材についての参考資料(農林水産消費技術センターのHP) こちらから
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